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(おや?)




委員会が終わり、愛しいセルティの待つ自宅へ帰ろうと足早に新羅が昇降口に向かうと、そこには数少ない友人(と思われる)の想い人が暗い顔をして立っていた。


「やあ、竜ヶ峰君。どうしたんだいそんな所で」

「新羅さん」

俯いた顔を上げ新羅を見た帝人は、疲れ切った表情をして溜め息を吐く。

「臨也と帰ろうとしてここまできたはいいんですけど、下駄箱でちょうど静雄さんと鉢合わせしちゃって…」

そこでまたいつものごとく喧嘩となり、臨也は今現在静雄に追い掛けられて校内を駆け回っているということらしい。それを聞いて新羅は哀れむように帝人の肩に手を置いた。

「災難だったね」

「はは…。新羅さんは今帰りですか?」

「うん、委員会が長引いてね。早く帰ってセルティに会いたいよ」

「そうなんですか…あ、セルティさん元気ですか?」

「うん、変わりない。この前久しぶりに君と会いたいとか言ってたよ。あはは、妬けちゃうなぁ」

「…新羅さん、目が恐いです」

帝人は、セルティが自分のことをずいぶんと気に入ってくれているらしいと新羅から聞いていた。『なんか母性本能をくすぐられるんだ』とかなんとか言っていたらしい。それについて帝人はとても嬉しかったが、たまに新羅に睨まれるのはちょっと勘弁してほしいと思ってもいた。

(だけど、新羅さんとセルティさんの関係って少し羨ましいなぁ)

二人のやり取りを何度か見てきたが、その度その度にいつもそう思うのだ。偶に臨也も「なんだあいつら見せつけやがって…!」とかなんとか言っていた。
傍からみていてわかるくらい、それほどまでに新羅とセルティは互いが互いを愛していた。帝人はそんな恋愛を今までしたことなど一度もなかったから余計である。

というか恋すらしたことがないのではないだろうか

帝人の小学校時代はほとんどと言っていいくらい臨也と遊ぶばかりで、愛だの恋だのと考えるような年頃ではなかったし、中学のころは、突然消えた臨也を探すことしか考えていなかった。

(なんだこの今までの学校生活は、臨也ばっかりじゃないか)

帝人は顔を顰める
自分は彼を考えて、追いかけて、ここまで来たけれど、彼はきっと中学の時なんて自分のことなど一度も考えなかったのだろう。臨也に自分の事を考えなければならない理由も義務もないし、彼には全く非はないのだが、それでも自分ばかりがなぜ、と少しいらいらしたりもした。

(そういえば臨也はここに来てからどう過ごしていたのかな)

中学時代など思い出してしまった所為か、自分の前から消えた後、臨也がどんな風だったのか帝人は気になった。だが、それを本人に聞けば、なんでそんなことが気になったのかと問いただしてくる気もして、ただ単に気になったと言えば良いとも思うが、それだけじゃはぐらかしてくるのが臨也だということも帝人はよく知っていた。
ならば別の人に聞くしかない。
臨也の中学時代をよく知る人物。それは今ちょうど目の前に居る新羅だ。彼が中学から臨也と一緒だったということは聞いているし、これは絶好のチャンスなんじゃないかと帝人は思った。

「新羅さん、臨也と同じ中学だったんですよね」

「うん、そうだけど。」

「臨也、その時どんな、でした?」

おずおずと聞いた帝人のその質問に対して新羅は「うーん…」、と少し考えた素振りを見せて、そしてさらりと答えた。

「一言でいえば、最低だったね」

「最低!?」

「うん、毎日のように静雄と喧嘩しては街や学校の中を壊して回ってたし、あ、これは今も同じか。あと、人間観察と表して他の生徒に色々やって不登校にさせたりとか」

「それ、小学校の時も偶にやってました…。何て言うか…今とあまり違わないってことでしょうか」

「そうだなぁ。今の方がだいぶ、というかものすごくマシな方だよ。あの時の臨也は、何て言うか、かなり荒れてたかな。僕はあまり知らないけど、さっき言ったことの他にも何か色々とやってたみたいだし。あ、あと、女子と付き合っては、すぐに振ってたなぁ」

新羅の言葉に帝人は目を見開く。そこまで色々とひどいことをしていたことにも驚いたが、それより、むしろ

「臨也、彼女とかいたんですか」

「え、うん。僕が知る限りでも結構いっぱい…」

そこではた、と新羅は口を紡ぐ。はたしてこれは言ってもよかったことなのだろうか。帝人は仮にも臨也の好きな相手だ。その相手に臨也の昔の悪い所業を言ってはいけないのではないか?嫌、駄目だろう。下手したら臨也に後ろから刺されかねないんじゃないかと、新羅は顔を青くした。

「み、帝人君、今のこと僕が言ったって臨也には…」

内緒にしておいてほしい、と彼の方を向くと、帝人も顔を青くして俯いていた。

「どうかしたの?帝人君」

その表情に只ならぬものを感じ、新羅が声をかけると、帝人ははっとしたように顔をあげて、何でもないというように手をぶんぶんと振る。

「ご、ごめん!もう僕帰るね!話してくれてありがとう、じゃあ!」

「え、ちょっ…」

また明日!、と早口で言った帝人は新羅に背を向けて、走って校舎を出て行った。













「片鱗」


(僕の中でわずかに引っ掛った言葉は―)







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