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□寒いのを言い訳にして
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僕は寒いのがすこぶる苦手だ。



朝起きた時のあの、布団の中からなかなか出られないような、そして外出するのさえ煩わしくなるようなそんな季節、つまり冬。
この季節にはいつも悩まされる、というのも僕の家には暖房器具というものが存在しないのである。しかしながら冒頭にも言ったように、僕は寒いのがすこぶる苦手だ。毎年毎年実家でも冬を乗り切るのが辛かったというのに、この池袋に来てそれが益々辛いものとなっていた。

去年だろうか、無理矢理連れてかれたある人の家がとても暖かくて、いけないとは思っていてもつい入り浸ってしまった。おかげで僕の苦悩は緩和されたわけだが、如何せんそのある人の家とは折原臨也の家なのだ。
幼馴染みにそれを言えば断固反対されそうだが、でもしょうがないと思ってほしい。僕にはまだ暖房設備を買うような余裕は無く、しかも臨也さんはいつでも家で暖を取ると良いよなんて笑顔でいうのだから(まあその笑顔に胡散臭さも感じたが)、寒さの苦手な僕は甘えてしまったのだ。


さて、今年も冬という季節がやってきて、僕は外の冷たい風を浴びながら、去年と同じく臨也さんの家へと向かったのだが。


「…寒い!」

「ああ、帝人君ごめん。エアコン故障しちゃってさぁ。」

臨也さんの家の中に入って感じたのは、いつもの暖かさではなかった。何これいつもと違う!そう叫んだ僕に彼は淡々とそう告げた。

「明日には直るらしいんだけど。」

「メールした時に言ってくれれば良かったのに…」

彼の家に行くときは必ず前もって連絡をする。今日だって朝に行っても良いかメールをしたら、了承の返事が来たからここにこうして来ているのだ。
暖かくないなら僕が此処に来る意味がないじゃないですか。
そういう意味合いを込めながら僕は仏頂面で臨也さんの方へつかつか歩み寄る。すると彼は若干苦笑しながら僕の頭を撫でた。

「君は本当に素直だよね。ココア飲む?温かいやつ。」

「頂きます。」

即答した僕に、臨也さんはくつくつと笑いを堪えながらソファーを指差して、その後キッチンへと歩いて行った。

なんで彼があんなに笑っているのかはわからないが、ソファーを指差した意味は分かる。そこに座って待ってろという意味だ。
いわれるままにソファーに向かうと、そこには僕が好きそうな肌触りで暖かそうな毛布が置かれていて、ああほんとあの人は用意周到だな、と若干イラつきながらもその毛布を頭から被ってソファーへ腰を下ろした。







――――
「どう?それ。」

湯気のたったコップを二つ持ってきて、臨也さんは僕の隣に座る。

「良いですね。あったかいし。最近買ったんですか?」

「うん。君が好きそうだと思って。」

「あ…そうですか。」

そういうことは恋人に言ってやれ。
真っ先にそう思ったが、もしそれを実際に他の人に言っている彼を見たらイラっとくるかもしれない。
少し心がざわついて、溜め息を吐いた後僕は目の前に差し出されたココアを一口飲み込んだ。じわじわと体に染み込んでくるような暖かさと甘さに思わず顔が緩む。
視線を感じてちらりと横目で隣を見ると、コップを片手にこちらを見ている臨也さんと目が合った。

「臨也さんは、寒くないんですか?」

「帝人君みたいに寒がりではないからね。」

「嫌味ですか。…あ、でもこの家、今暖房ついてないのに僕の家より暖かいですね。」

「あっはは!あのアパートと俺の家を一緒にしてもらったら困るなぁ。」

まあ、そうだけど。
彼の言っていることには、ええごもっともですとしか言えない。だから僕は、今彼の家に暖房が無くてもこうして入り浸っているのだから。それ以外の理由なんて、
ああまた心が若干ざわついた。落ち着きを取り戻すためにもう一口ココアを飲み込んだ僕に、臨也さんは何か勘違いしたのかこう言った。


「帝人君は本当に寒がりだよね。まだ寒い?」

「いえ、」

どちらかというとさっきより体温が上がっているのだが、それを彼に言ったらどうなるかな。考えてまた隣をちらりと見ると、今度はコップを両手持ってココアを飲んでいる彼がいた。

そこで、あれ、と感じたのは間違いではないはず。僕は被っていた毛布を片方だけ広げた。

「臨也さん、一緒に毛布入りますか?」

そう尋ねると、彼はぶはっ、とココアを吹き出した。

「―…何してんですか。」

「…君こそ何言いだすの。」

口を袖で拭ってこちらを見た臨也さんは今までに見ない狼狽えっぷりだった。
いや、だって寒そうだからと言ったら彼は否定しそうだ。だから別の言葉を考える。

「二人で入ったほうが、あったかそうだな、て思って、」

あ、これはこれでこっちが恥ずかしい。でも言ってしまったからもうしょうがないから、僕は顔を隠すために俯いた。
数秒、隣から視線を感じる。
その後突如毛布が引っ張られて、僕は臨也さんの肩に頭をぶつけて悲鳴をあげた。

「ちょっ、いきなり引っ張らないでくださいよ!」

「あー、うん。確かにあったかい。」

僕の訴えをスルーして臨也さんはさらに毛布を引っ張って、ついでとばかりに僕の体も引き寄せる。

―…なんだやっぱり寒かったんじゃないか。
軽く触れた彼の手は割と冷たくて、僕も自分から体を寄せた。

「帝人君子供体温だね。温い。」

多分それは貴方がいるから。だってことは臨也さんには絶対にいってやらない。






―――――――

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