短編
□忘れてしまおう
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珍しいものを見た
僕は今臨也さんのマンションにいる。
なぜかというと呼ばれたからだ。
臨也さんではなく矢霧波江さんに。
「えっと…これはどういう状況なんですかね。矢霧さん」
「彼に聞いてちょうだい。私はもう帰る時間だから」
それは僕にすべてを丸投げってことでしょうか。目の前の惨状を見て僕は考える。
「あの、僕にどうこうできるんでしょうか…?」
「少なくとも原因はあなたよ。じゃあ、明日には仕事ができる状態にしといてちょうだい」
そういってさっさと部屋を出ていく矢霧さん。
…えー…
とりあえず僕の目の前に広がる光景を説明すると、部屋中には缶ビールの山とアルコールの匂い、そのほぼ中心で今だ缶ビールを開けようとしている折原臨也。僕がいることには気づいていない模様。それだけ酔っている。たぶん。
僕は彼の性格からして酒には飲まれないタイプだと勝手に思っていた。だからこの現状には些か驚いており、何をすればいいのか何てことに頭が回るはずもなく、ただただ突っ立っている。
さっき出て行った彼女は僕が原因だと言っていたがそれについても皆目見当もつかなかった。
だが、ずっとこのまま突っ立って何もしないのもあれなので僕は臨也さんの方に歩み寄って会話を試みた。
「臨也さん臨也さん」
「…んだよ波江。まだいたのか。」
やっぱり相当酔っているらしい
「臨也さん、僕は波江さんじゃなく竜ヶ峰帝人です」
「……え…?みかどくん?なんで、ここに」
「矢霧波江さんに呼ばれました」
「…これは幻覚…?さすがにのみすぎたか」
意識は割とはっきりしてるのかな。いや、僕を幻覚だと思ってる時点で全然だめか。
僕は、臨也さんの前に現実に存在することを認めさせるために彼の手を取った。その時一瞬だけ彼の手が震えた気がした。
「臨也さん。幻覚じゃなくてちゃんとここにいますよ僕」
「・・・うそだ」
「え?」
「帝人君がここにいるなんてありえない」
僕この人に何か言ったっけ?
「どうしてそんな風に思うんですか」
「だって帝人君はー」
その時の臨也さんはとても泣きそうな顔をしていて、その表情に僕は息をのんで次の言葉を待った。
「−なんだっけ…?」
「…………………はい?」
随分と間抜けな声を出してしまった気がする。
臨也さんはさっきの表情から一変してきょとん、とまるで何かが抜けてしまったかのような、そんな顔をしていた。
なんともまた状況がつかめなくなって、臨也さんの名前を呼ぶと、いつもより何倍も良い笑顔で抱きついてきた。
「みかどくんみかどくんみかどくん!」
「ちょ…うわ」
酒臭い!!なんだただの酔っ払いか!!
たぶんさっき泣きそうだったのも何の意味もないんだろう。きっと酔っぱらったら泣き上戸になっちゃう人なんだ臨也さんは。
そう無理やり納得させて僕は立ち上がるために臨也さんをひきはがすことを試みたが、酔っているにもかかわらず力は普段とそのままで。
「みかどくん、いかないでよー」
どうやら諦めるしかないようだ。
(…くそう)
ぎゅうーっと抱きついて頭をすりすりしてくる臨也さんを可愛いだなんて思うのはきっとこの部屋な酒の匂いで酔ったせいだぜったいそうだ。
++++
「…えっと、?」
いまいち状況がつかめない。
部屋には転がったビール缶
その中心に寝ている俺
少しばかり痛む頭
隣には帝人君の寝顔
(…えええええ?)
痛む頭を押さえ、必死に昨日のことを思い出そうとする。
―嫌なものを見た
それが夢だったのか現実だったのかは思いだせないけれど、とにかくそれを見て気分が悪くなっていらいらして何も手につかなくなって。
それを必死に忘れようとした
(結果忘れてしまったわけだけど)
今は気分も悪くないしいらいらもしていない。しかも隣には帝人君がいて、
(これはもう喜ぶしかないよね)
とりあえず飲み物でも飲もうと起き上がるとその拍子に帝人君も目が覚めたらしい「んあー…?」とか言ってこちらを見た。
「帝人君帝人君」
「…うー…あ、臨也さん?」
まだ覚醒していないせいかぽやーっとこちらを見る目が何ともかわいくて襲ってしまいそうだったが、なぜ帝人君がここにいるか知りたかったので今は自重した。
とりあえず目を覚ますために二人で立ち上がって大きく背伸びをした
そしてこの部屋の現状の説明を帝人君に求めると、普段から大きい目を更に見開いてこちらを見た。
「…え…覚えてないんですか?昨日の夜のこと」
肯定した俺を見た帝人君のその表情は最悪だ、と言わんばかりだった。
しかも溜息までつかれた。
「…とりあえずこの部屋を片しましょう。波江さんが来る前に」
「…うん、まあそうなんだけど」
「僕、波江さんに呼ばれたんですよ。僕が原因で臨也さんがビール飲みまくって部屋荒らしてるから何とかしろって。臨也さんが起きたら理由聞こうと思ってたのに、忘れてるとか…はぁ」
なるほど。嫌なことを忘れようと俺は酒を飲みまくったわけか。なんとまあ典型的な方法をとったもんだ俺のくせに。原因が彼だと言うがやっぱり何だったのかまでは思いだせなかった。
「無理に思い出さなくて良いですよ。きっと何か嫌なことなんでしょうから。僕が原因っていうのが気になりますけど…またあんな飲まれても困りますし、あんな臨也さん、見たくないですし…」
「あんな俺って?」
酒に酔うなんて普段絶対にないことなので、酔うとどんなふうになるのか気になった。
帝人君は一回口を開いて、そしてまた閉じてそっぽを向いた。
「…内緒です」
「教えてくれたっていいじゃないですかぁ。太郎さん」
「はいはい、調子戻ってきたみたいなのでちゃっちゃか片しましょう」
そう言って帝人君はゴミ袋を取りにキッチンに向かった。
−−−ビールをちょうど片し終わったころに波江が来て、それと入れ替わるように帝人君は帰って行った(いてくれてもいいのに)
一応波江にも昨日のことを聞いてみたがやっぱり何も答えてはくれなかった。
−−−−−−−−−−
帝人君の見たくないあんな顔とは臨也さんの泣きそうな顔のことです。
嫌なことの中身はぶっちゃけ考えてないです。思いつかなかった。
酔っていつも以上に帝人君にべたべたする臨也さんとかにしたかったんですけど。
臨也さんが酔う理由がほしかった。絶対酒には飲まれないだろう臨也さんが悪酔いしちゃう理由って、なんかショックなこととかあったりしたときだけではなかろうかと。
自分勝手な妄想ですごめんなさい(土下座)