09/20の日記
10:02
花蘇芳 4
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「何それ、冗談キツいよ…?」
「冗談と違いますぇ?わてはあんたはん達の敵なんどす。」
顔色一つ変えずに『自分は敵』だって繰り返すアラシヤマはまるで浪曲でも流してるみたいにあっさりとしてた…
「どうして…どうしてアラシヤマが…シンちゃんを裏切るの?」
「此れが一番手っ取り早くて確実やから。」
「……」
キッパリとハッキリと告げるアラシヤマの眼に迷いの色は無くて…
「手っ取り早いって何をする気なの?」
「今は言えまへんなぁ。せやけど、わてはやるべきと決めたからには手段は選ばへんの。」
「そんなの…そんなのわかんないよ…。」
「解ってくれへんでえぇから、早うあの子達と降りてくれへん?」
「断る!何をやりたいのかなんて僕には関係ない!!」
「わてな、これでもあんたと戦いたないんどすぇ…?
せやから、大人しゅう従ったってな。」
「!?」
言葉とは裏腹に愉しげに臨戦態勢を示すアラシヤマに非戦闘員の僕らじゃ勝てるわけないから部下達には撤退指示を出したの。
「…これで満足?」
「そうどすなぁ…後はあんたはんが降りてくれはったら言う事無いんどすけど。」
「行かないよ。」
「どうしてもっちゅうても?」
「アラシヤマも一緒に行くんならいいけど。」
「そら、無理な相談どすな。」
部下達の脱出が完了して、特別研究室には僕とアラシヤマの二人きりになった。
「…何がしたいのか知らないけど、此れは僕らを裏切ってまでやらなきゃいけない事なの?」
「そうどす。此れはどうしても必要な事なんどす。」
飄々と言ってのけるアラシヤマが凄く腹立たしかった。
「残念どすが、もう時間がありまへんのや。」
「アラシヤマ…」
「他ん人が来る前に行きなはれ。」
「行けない。」
「なして?」
「君を置いて逃げるなんて出来ない!!」
例え君がどんなに否定しようとも、君は僕の…
「わての事は今関係あらへんやろ!」
「関係あるよ!」
「!?」
「だって、友達だもの!!」
「…………友達やの?」
「そうだよ。」
「裏切り者なんに?」
「関係無い。友達は友達だもの。」
「そうどすか…。」
纏う雰囲気がさっきまでと全く違う。冷たくも暖かくも無い…
「ほんなら、此れ預かっておくれやす。」
「冷たっ!?」
「生物(ナマモノ)やし、冷蔵庫に入ってたさかいな。」
手渡された黒い箱は凍ってはいないものの、とても冷たい黒い箱。
見た目よりは少しばかり重いかも。
「此れ…何?」
「わての致死率を下げるアイテムどす。逆にそれを捨てはったら、わてを殺しやすぅなりますぇ。」
「何でそんな大事な物を…」
「『友達』なんどっしゃろ?」
「!!」
「それ、此処にあると困るんどす。どっかにぶちまけようかと思っとったんやけど…折角やから『友達』に預けよかと思うてな。」
『友達』という言葉が少し嫌味に聞こえる。しかも、無いと死んじゃうかもしれないって言ってる筈なのにぶちまけるなんて…
「なぁ、受け取ってくれはるやろ?」
「………うん。」
受け取らないなんて、言える訳無いじゃん。
「それ、此処に有るんがバレたらあかんから、あんたも行ってくれへん。」
「……わかった。」
どうせ嫌だって言っても力ずくで逃がすんでしょ?
「おおきに。」
「その代わり、遣りたい事が終わったら全部話して貰うから。」
「…話、出来たらやけどな。」
「出来なくなってたら許さないから。」
「おぉ怖い。」
非常梯子の滑り台に座って念を押しておく。だって、そのくらいしないとホントに危ないから。
「またね、アラシヤマ。」
「気ぃ付けてな。ほな、さいならどす、グンちゃん。」
「アラ…!」
僕が振り返るより先に、背中を押されて、滑り台の下へと向かってたからアラシヤマがどんな顔をしていたか見る事が出来なかった…。
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10/1 改正
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