■□ LONG □■

□ 参
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あの時、旦那はんが扉を閉めた後。


旦那はんを止める事は出来なかった為、涙ながらも言い付け通りに母を奥の部屋運び、息を殺して隠れていた。


どれ位経ったかはわからない。でも、暫くして扉の所で大きな音がした。

外からは壁にしか見えない扉。しかし、其の音は確実に扉を叩いていた。



「扉の場所、知っとるんや。」



意識のない母を守ろうと、小さな背に必死に庇った。


少しすると壁ごと扉が崩れた。鍵などまるで意味を為さなかった。

ドカドカと入ってくる沢山の人間。みんな怒っている様で怖かった。


その中、一人の中年の男が母を抱かえた。



「お母はん!」



駆け寄ったら蹴られ、転がされた。アラシヤマが立ち上がる間に母を連れて、地上へと遠ざかっていく。



「待っておくれやす!お母はんを……お母はんを連れて行かんといて!!」



母を抱かえた男にすがり付いたが、冷たい視線が返ってくるだけだった。


階段を昇る足に引っ付いていると、



「……お袋さん、死んでまうで?」

「!!」



後ろの方に居た青年が声を掛けてきた。『親戚』達の中で唯一笑っていた男だ。



「死んでまってもえぇ?」

「えぇ訳あらしまへん!なして、お母はんが死んでまうて……。」

「治療しなけりゃ死ぬ。……て言うたんや。」

「治療……。」



お家には治療する為の道具がない。例えあったとしても、自分には遣り方が分からない。



「わからんやっちゃなぁ。死なせとうないんやったら、治療しに上さ連れてくんやから…


その薄汚い手ぇ、とっとと離しや!!」

「!?」



男はずっと笑っていた。
しかし、その表情が突如として変わり、目をあわせ、責め立ててきた。



「ま、父親みたいに殺したいやったらそのまま掴んどいたらえぇ。」

「ち、父親?」

「旦那はん、言うてたっけ?」

「だ、旦那はん、死んで…しもうたん……」



自分の見た未来と聞いた声が事実だと物語っていた。


力が抜け、その場に座り込んだ。手が離れた隙に、お母はんは地上へと連れて行かれた。



「ほんま阿呆みたいな死に様やで。自業自得や!鬼なんぞ匿うからこんな目に会うんや。」


「鬼……わての性為なん?」

「お前ん事なんぞほっといて、女房と二人やったら逃げられた筈やろが。お前の所に来た所為で死んだんや。」



昔聞いた事がある。
此の地下室は入口から一番離れた奥にあるのだと。



此の男の言う通り、自分の所に来るなんて危険極まりない。



「お前が殺したんや。」

「わてが…殺した…?」



世界が回っている。男は笑いながらも着実に責め立てていく。何も分からなくなってきた。体が動かない…。


浮かぶのは扉を閉めた時の笑った旦那はんの顔。



「…ちゃう、わての所為やない……」



あん人は笑ぅてくれた



「いんや、違わん。
  あの男を殺したんは
    ……お前や、鬼っ子。」


旦那はんは優しかった。
いつも自分を気に掛けてくれたし、暖かかった。色々教えてくれて、笑ってくれた。

火を宿す自分の事も恐れず、愛し気に頭を撫でてくれた。



自分を『旦那はんの子』だと、そう言ってくれた。



そんな旦那はんを……



「旦那はんを殺したんは
          わてや…」


体の震えが止まらない。頭の中で何かが鳴っている。目の前が真っ暗で何も聞こえない。





ショックのあまり呆けてしまった人形のような子供を『親戚』達は部屋に押し込み、錠をかけた。


以来、子供は自分の意思では部屋から出られなくなった。





罪悪感を植え付けられたアラシヤマは、一人塞ぎ込むようになった。







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