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□ 参
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「…旦那はん……嫌や、……旦那はぁん〜!!」
目を覚ましてみればいつもの通り、薄暗いお家の部屋ん中。しかし、今まで開いていた戸も鍵も固く閉じている。
朔日草 参
「……夢か。」
あれからどん位経ったんやろか?旦那はんの声が耳を離れへん。
何度も何度も此の夢を見た。
……あん時旦那はんが扉を閉めた後、初めて『遠見』の能力が発動しはって旦那はんの未来が見えた。
扉を背に、わて達を守らんと散った姿。
なして、もっと早ぅ見れへんかったんやろ?ほんの少し早ぅ見れたなら、きっとあん人は無事やった筈や。
なして、お母はんから受け継いだ能力をよう聞いて磨かんかったんやろか。
お母はんみたいに訓練しとったらもっとはよぅ見れた筈やのに…。
後悔だけが募っていく……。
「何騒いどんねん!」
「ビクッ!」
「喚き散らして、喧しい!」
「す、すんまへん…」
「これやから餓鬼は……」
おっかない人が来はった。『親戚』言う人の一人や。
声が届いてしもうたんや…お家の扉、壊れてしもうたさかい、しゃあない。
扉開けたらおっかない人も物も入ってくるて……お母はんの言うとった通りや。
「聞いとるんかい、われ!」
バシャッ
冷たい水をお部屋ん中にかけはった。お布団も床もわても、皆びしょびしょんなってしもうた。
「なして俺がこんなんせなあかんねん…。」
「…………すんまへん。」
「次騒いだらこんなんじゃ済まさんで!大人しゅうしとれ!えぇな。」
「…へぇ。」
わてかて、騒ぎとぅて騒いどる訳やあらへん……
「何か言うたか?」
思考が届いてしまったらしく、急いで首を振る。すると『親戚』は此方を一瞥して家から出ていきはった。
『ほんま迷惑なお荷物やな……』
口に出していないであろう声が頭に響いた。
水だけで済んだ…きっと機嫌が良かったのだろう。
薄暗い部屋は水浸しで、じめじめとしている。
毛布代わりのタオルケットで床を拭き、水を吸った布団を搾った。
部屋から出れないから、取り替えに出る事も出来ない湿った布団の上に座る。
「…ヒック…お母はん…。」
傍らに母の姿はなかった。
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