エゴイストの心臓
□ひとつ
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ぼくは昨日生まれたのである。
そして明日には死んでしまうのである。
それまでは 自由 なのである。
美しい月を見た
美しい星を見た
美しい夜の匂いをかいだ
美しい風を舐めた
美しい光の波を見た
美しい夜に遊んだ。
そしてぼくは美しい朝日を見た。
地平線をなぞるように現れた美しい光はぼくの心臓を焼く。それほどの美しい朝に触れたのである。
ぼくは幸福である。
人間はこの世界に何故退屈を感じるのか解らないのである。月に俯き朝日に背を向く、無感動な人の波が信じられないのである。
何故心に触れないのか解らないのである。
しかしそれは半日しかない(正確にはもう30分もない、)命だからなのである。
長い間を生きると世界は摩耗するものなのである。自分の中という世界が褪せていくのである。褪せていかないのは稀である、のである。
意見とは立場で食い違って当然、なのである。
だから人間はこんな時に泣くのであろうか、
世界の美しさを再認識して。
だからぼくは泣かないのである。美しいことなど 知って いる。
音が小さくなってきたのである。もう時間である。
それでも僕は満足である。美しさも感動も永遠になるのである。
その永遠の保持者になれるのは、中々名誉なことである。
胸の鼓動が止まるので、あ、る 。
(もう充分、もう充分なのである、ぼくは美しいものを見た、十分に美しいものを見たのである!此れ以上のものを見て幻滅などしたくはない、目にした美しいものを錆びさせるのは勿体ない!だから、だから頼むのであるヨシュア、胸の螺子を巻いて呉れるな!)
束の間の鼓動
ねじ巻き人形の冒険、あるいは 永遠に意見す 。