The hand ties.

□第八章
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私は、壱葵君の部屋のベランダから外を眺めていた。
もう、あの頃とは違う。
私の事を“神無月”と言う人達も、もういない。
大丈夫。大丈夫。
と言いながら、息を整える。

カタンッ

という音が聞こえた。
音が鳴った方を見ると、そこには一羽の小さな鳩。
珍しい。この場所で飼っているのだろうか?
そう思いながら、小鳩をじっっと見た。
意味なんて無いのに。じっっと見る。

意味が無い事を繰り返す。
そんな事さえも意味は無い。だから、私は目線を小鳩から背けた。
壱葵君は、まだ帰っては来ない。
『黒神のお嬢さん』
どこからか声が聞こえた。
私は辺りを見回す。
『ここや、ここ』
「ここ?」
そう言われて、振り返るとさっきの小さな鳩。
「鳩がしゃべったっ?!」
『ちゃうちゃう。腹話術や』
「ふ、・・・ふくわじゅつ?」
『・・・まぁ、ええわ』
オドオドしている私を気にせずに、話を進める鳩。こ、・・・怖い。
『まぁ、用件をいうわして貰うけんど、今からすぐに、三階にきぃ』
三階?
確か、壱葵君の部屋は二階だから、一階上ってことかな?
『まぁ、いうたから。ほなな』
それだけ言って、小さな鳩はベランダからいなくなってしまった。
まぁ、行くだけ行ってみようかな・・・。そう思って、私は部屋に戻った。



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