novel
□君は誰のもの?
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「千鶴」
数日後に文化祭の開催を控えて、準備のため夕方を過ぎて下校する日が続くある日。
雪村千鶴は、同級生たちと連れだって校門を出たところで、不意に声をかけられ足を止める。
声のした方を振り返ってみると、門柱に寄りかかって自分を見つめる人物と目が合う。
長身に、薄闇にも映える紅い髪と穏やかな笑み。
幼い頃から、そうして自分を見守ってくれている人物が、そこにいた。
「左之…原田先輩」
千鶴は少し驚いたように、その人物の名を口にする。
「一緒に帰ろう、千鶴」
「え…?」
唐突な言葉に千鶴が小さく首を傾げるのと、周りにいる同級生たちの発するざわめきが重なる。
「待ってて、くれたんですか?」
「ああ。千鶴に夜道を歩かせる訳にはいかないからな」
「先輩…」
千鶴は火照る頬を意識しながら、同級生たちに別れの挨拶をして、集団から離れる。
そして千鶴を待つ人物の傍に移動して。
「待っててくれて、有難うございます。原田先輩」
微笑んで自分の傍らにやってきた千鶴の荷物を、さりげなく取りながら彼は千鶴の同級生たちを一瞥する。
大人げないと自覚しつつ、彼は千鶴の同級生たちを牽制しておく。
何故なら千鶴と一緒に出てきた、彼女の同級生の大半は男子生徒なのだから。
悪い虫は早めに駆除しておかないと、と内心で考えながら丁寧なエスコートで、千鶴と歩き出す。
少し歩いた場所にコインパーキング。
そこに停めてある車の助手席に、当然のように千鶴を座らせると、自分は料金の精算に行く。
そんな彼の姿を見ながら、千鶴は無意識に淡い笑みを浮かべている。
彼の所作の一つ一つを見るのが、千鶴は幼い頃から好きだから。