無題
□第九話 「未完成な私と完璧な貴方」
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どうしてそうなった
エムが一番そう思っている。
自覚してしまうとどうも・・
「・・・ーーーー」
エムは無表情でよく分からない声を出す。
顔を真っ赤にして女性から身を話す。
どうしようもなく恥ずかしくなった。
この初めて見た女性がどうしようもなく愛おしい。
「・・・・あの、外人さん」
「・・・は、ハーフなんです・・・僕」
「あらそうなの、外人さん」
「・・・・」
そんな会話もエムの耳にはあまり届いていない。
自覚はしていないがこの女性を一瞬で好きになってしまった自分がいるのだ。
どうしようもない。
三十路なのに。
「・・あの、外人さん?」
「・・・はい・・・?」
エムはそれまで心ここにあらずで聞いていた、というか見惚れていた。
でも、次に発せられる流と名乗った女性の言葉で現実に呼び戻される。
「・・・ジンさん以外の男が触れるとか正直私いま自殺したいの死にたいわどうしよう殺してちょうだい」
「・・・・・・・え・・・・?」
何を言ったのかよく聞き取れない。
いや、物理的には聞こえているのだがその言葉の中身が聞こえてこない。
流はエムの手と重なっていた自らの手を素早く抜き取りハンカチを取り出し拭く。
「・・・・いや、悪いのは私なのよ、その悪い私よりあなたのほうが一億八千倍は最低な人間だとも思うけれど。それでもまあ私の手に触れただけでジンさんに何かしたわけじゃないんだから脳みその中であなたを二十八回殺すだけで許してあげる。まったく・・自分の甘さに反吐が出るわ」
「・・・・・・」
「あ、ごめんなさいつい本音が。いや、でも本当にあなたが嫌いなだけなの。一目見ただけでここまで嫌いになれる人は貴方で五十三人目よ。だってみんなジンさんより衰えてるし、ジンさんより下品だし、ジンさんより上の人なんていなくて、ジンさんが一番素敵で、ジンさんが一番優しくて、ジンさんが一番私の愛してる人で」
「・・あの・・・」
このままでは会話が終わらない。
エムは会話の内容を理解するより前にこの現状をどうにかすることを選んだ。
「・・・ジンさんというのは・・・・静和ジンの事・・・かな・・・?」
エムはその言葉を女性の目を見ながら言う。
顔を赤くしながら。
「・・・・・ど う 死 て あ な た が そ の 名 前 を 知 っ て い る の ?」
一言一言を重く言い放つ流。
エムの中には「病んでいる」という選択肢がないため流にどういった印象を持てばいいのかわからず混乱している。
でも、同時に可愛いとも思っている。
「・・僕・・も・・・今からジン君の歌を聴きに行く途中なんだ・・・」
慣れてきた日本語を一生懸命紡ぐエム。
少し流の反応を恐る恐る確認するエム。
「・・・なんだ・・そうなの!貴方なんていい人なの素敵よ大好きよジンさんの次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の
次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次のの次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次のだけどねだけどね!!」
予想以上の笑顔の言葉にエムは内容とか飛ばしてときめく。
しかも大好きという単語が余計に心臓を高鳴らす。
何とも奇妙な光景。
「・・・・・道に迷ってしまって・・・でも、携帯あるし・・友達もいる・・・ので・・」
「あらあらそうなの。私は寒すぎて死にかけていたのよ。じゃあ連れて行ってあげるわ行きましょう天国へ」
流は恐ろしいことをいいながら手を出す。
エムはそれをためらうことなくつかもうとする。
するとその手をひょいっと空を切ってエムを避ける。
「触れないで死ぬわよ、私が、今ここで」
そうして流は言葉を紡ぐ。
「・・携帯、貸して。あなたの友達に連絡するわ」
饒舌な病んでいる美少女とハーフの天然三十代前半美青年。
何とも不思議な取り合わせである。
そんな二人の出会いだった。
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