無題

□第九話 「未完成な私と完璧な貴方」
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――――そのころエム――――――




「・・・What・・・?」


エムは座り込んで携帯をいじっている。
何やら待ち受け画面のAAのままになっている。


「・・・(・・どうやったら通じるんだっけ・・これ・・)」


エムは携帯電話という物の使い方を忘れてしまったようだ。
アイという美しい青年が必死に教えてくれたのだが、そのことに感動して話をあやふやに聞いていたのが悪かったのか。

それでもあきらめずいろんなボタンを順番に押している。

ここで使えなかったらアイに恥をかかせてしまう。



「・・・・・・あっ・・」


すると電源が切れてしまいエムは無表情でしょぼんとなる。


「・・・・(どうしようか・・)」


エムがいるのは体育館とは反対方向にある大きい噴水のある花壇に座り込んでいた。


「・・・・・寒っ・・・」


無表情で肩を震わせながら肩を丸める。
画面の黒くなった携帯電話をポケットに突っ込む。

「・・・・・(もう始まってるかな・・)」

三十代過ぎの綺麗なおじさんはうずくまって小さくなる。
外になかなか出ないから珍しく出ると体がついていかない。


正直眠い。


「・・・・雪・・・」

ふと上を見ると雪が降ってきた。

綺麗な雪が。





「・・・・・」


手を伸ばすと



エムの手のひらに





女性の手が降ってきた。






「・・・・・え・・・?」



エムが無表情で焦って自分の手のひらを見る。

すると間違いなく女性の手がある。

でも、ちゃんと体とつながっていて生きている暖かさがる。かろうじて。


「・・・・あの・・・・」

声をかけてみる。


「・・・・・・ジ・・ジンさんは・・どこ・・かしら?」



その名前には聞き覚えがあった。

でも、この女性には身に覚えがない。


女性は片手だけエムの左手に重ねていて猫背である。

エムもそうとうな猫背だが。


「・・・・・あの・・」


エムは女性の顔がよく見えないので覗き込んでみる。







正直その行動はエムの人生最大の衝撃につながるものなのだが。


「・・・・・・わ・・」


正直その時エムは初めての感覚に襲われる。




「・・・・・・(・・すごく・きれいな人)」




一言で美女と表せられる女性。

白い肌に緑色の目。

何処かエムと似た雰囲気を持つ女性。
男性で言う眉目秀麗である。



「・・・あ・・の・・」



エムは自分でもわからない感覚に襲われて胸を抑える。

急な自分の中の変化に戸惑いを覚え混乱する。


エムは基本無表情、無反応だ。

人にもそこまで興味を示さず自分にもそこまで興味を示さない。
だから笑うことも無い。


でも、この初めて見た女性に何か特別な感情を覚える。




「・・ちょっと、何かたまってるの貴方」

「・・・・・・・」



エムは女性の顔を見て自分の心臓が痛むのが分かる。
理由が見えてこない。

今にも心臓が壊れそうだ。



「・・・あの・・」

「・・・なによ?」



エムは女性に話しかける。

そうでもしないとどうにかなってしまう。
何かこの女性に話しかけなければ・・・。



「・・・・名前は?」


エムは自分でもよく分からないことを言う。

どうして初対面のなんの関係もない女性に名前を聞いているんだろう。
これで無視でもされたらかなり傷つく。




でも今のエムにそこまで冷静な判断力は無い。



そして一層心臓の音は増す。


女性から返事は帰ってくる。



「・・・淡村・・流よ・・外人さん」


女性はエムの事を外人と呼ぶ。

悪気はなさそうにただエムの外見からそう呼んだだけのようだ。

その事だけでエムの心臓はおかしいくらい鳴り出す。



頬も赤くなってゆく。
鏡でみなくてもわかるくらい。



「・・(・・今僕・・・恰好悪い顔してるんだろうな・・)」




実際エムの表情は教師の中の誰一人見たことのない真っ赤な顔をしていた。



そう。




エムはこの女性に一目ぼれしたのだ。









惚れたのだ。











三十路のおっさんなのに。




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