ライチ短編

□これだけは秘密 -うたた寝の君-
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これだけは秘密 -うたた寝の君-

3学期が始まって、寒さも酣になってきた。
暖房器具がほとんどない校舎は凍えるほど寒くて。
今日は雪がちらついてるくらいだった。
蛍光町に雪が降るのは珍しいことだった。よほど寒いのだろう。
帰りのあいさつが終わったら直ぐに帰ろうと思ってたのに、こういう日に限って先生に、
「金田、まだ理科の課題がでてないぞ、職員室に提出してから帰るように。」とか。
なんだよ、タイミング悪いなあ。

出してない自分が悪いってのはわかってるんだけど、だって、嫌いなんだ。
勉強は嫌いじゃあないけど、理科は好きじゃなかった。
この前やった実験だって、豚の目の解剖とかワケわかんない。
ニコが目を抉った時の事を思い出して気持ち悪くなった。

めんどくさいめんどくさいと、頭の中で何度も復唱しながら職員室に行って課題のレポートを出したら、近くにいた生徒指導のナントカ先生に絡まれた。
生徒間では「ハゲ」のあだ名で通っているから、名前なんか覚えてない。

「お前、なんだその前髪は、だらしがない」
「……すみません」
「人はなあ、第一印象で全てが決まるんだぞ。きっちりしなさい」

うるさいなあ。ホントにうるさい。
先生こそ、その後退した髪をどうにかした方がいいんじゃないですか?
出そうになる言葉を飲み込んで「はあ」「そうですね」「すみません」を何度も繰り返してその場を誤魔化す。
早く帰りたい。

なんとか職員室を出て、僕は、タミヤ君が教室で待っていてくれてる事を思い出した。
無駄に時間を過ごしてしまった。早く行かなきゃ。

息を切らせながら階段を登って教室に飛び込む。
2号車の後列に座っていたタミヤ君は、自分で腕枕をするような形で寝ていた。
「タミヤ君」。名前を呼んでみるけど返事がなかった。
寝入っているのだろうか、僕が近づいても起きる様子がなかった。
なんだか新鮮な姿に、僕はタミヤ君の座ってる席のそばで膝立ちをして、じっと眺めることにした。
寒くなかったかな、大丈夫だろうか。
間近でみる整った顔に少し見とれつ、僕は思わず、彼の前髪に触れた。

少しクシャっとなった前髪をとかして、指をそのまま頬まで滑らし、起きないようにそっとつついた。
ぷにっとはしてない。でも、健康な色をしていた。
彼のまつ毛が少し震えて、はっと手を離す。

「…………ん」

急に動いたのでびっくりした。
でも起きた様子ではなかったので一安心。

ふと、彼の唇が視界に入った。
心地よさそうな寝息がそこから聞こえて、すごく可愛いと思った。
いつも、「可愛い」と言われて怒るのは僕の方だ。
でも、今のタミヤ君は「可愛い」と表現するほか無いような気がした。

キスしたいなあ。
でも、そんな事をしたら起きて、一歩違えば見つかる。
僕は少し考えて、自分の手を見た。
指にキスをして、それを、タミヤ君の唇にそっとつける。
いわゆる、間接キスというやつで。

「へへ……間接キス、しちゃった……」

ぽつ、と呟いて、急に恥ずかしくなって顔を伏せる。
「っばかじゃん、僕、何やってんだよ……っ!」
膝立ちから、正座になるような感じに腰を下ろして、顔を覆う。
うわーうわーバカみたい。いくら寝てるからってさ。
片思い中の女の子みたいでたまらなく恥ずかしい。
まだ、普通にキスした方が断然良かった。
誤魔化すように爪を噛んで、そっと、もう一度タミヤ君を見る。
彼は、まだ心地よさげに寝息を立てている。

「……っ」

自分が慌てたり、顔を真っ赤にしたり忙しくしているところで、彼は平然として寝ている。
なんか、なんだかなあ。
僕だけが何かしてるみたいで、まあ実際そうなんだけど、悔しいような恋しいような足りないような、よくわからない感じがした。
どうせ、彼は何も知らないのだ。

「僕が、なんて言ってもどうせ聞いてないんでしょ」
「…………」
「、タミヤくん。……タミヤ君好き」

「タミヤ君、好き、大好き愛してる」勢いのまま何度も言った。
面と向かっては言えない。でも、寝てるなら言える気がした。

ふと、沈黙が走って、風で教室の窓がカタカタ鳴った。
そういえばいま何時だろう。
時計を見ると、四時半を過ぎていた。早くタミヤ君を起こして帰らないと……

「カネダ」
「――っ!」

急に声が聞こえてびくついた。
はっと視線をタミヤ君の方に向けると、眠そうな目の彼と目があった。
いつから起きてただろうか、もしかして、聞かれたりはしてないか。

「っったた、たみやくん!!?」
「……はよ」
「い、今の、聞いてた……?」
「え……知らねえ、何か言ってたか?」
「っいや、何も、い、言ってないっ」

慌てて否定する。
……よかった……聞かれてなかった。
タミヤ君は気にしない様子で目をこすったり、のびをしていた。

「……今何時?」
「よ、四時半」
「……帰るか」
「、うん」

こんなの恥ずかしすぎて、絶対に知られたくない。
僕は、そそくさと立ち上がって鞄を取った。


これだけは、秘密。


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バレてなきゃいいと思ってるカネダ君可愛い。

次の話とリンクしてます。( ´艸`)

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