ライチ短編

□雨
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5時間目の終わりあたりに雨が降り始めて、6時間目の中頃にはざあざあ降りになった。
今日は傘を持ってきていないのに、いやだなあ。
でも、急だったから、またすぐに止むだろう。
帰る頃には……


そう思って数十分。外はまだ土砂降りの雨だった。
誰もが予期していなかった自体。
仕方なく雨止みを待つ者や、雨の中を駆けて行く者、たまたま傘を持ってきていた人もいれば、その中に入れてもらおうと必死に懇願する人もいたり、皆、それぞれのやり方で帰宅を望んでいた。
そのなかでも僕は、一番前者の人間だった。大人しく雨が止むのをタミヤ君と、ダフの三人で待っていた。

「……あー……早く止まねえかなあ……」
「そう、だね……」
「天気予報では降るなんて言ってなかったけどね、どうしたんだろう」

これじゃ、今日のクラブは中止になりそうだね。僕が呟くと、ダフもタミヤくんも暇そうに頷いた。
冬の学校の玄関口は冷えるものだった。天候も乗じて、手がだんだんかじかんできた。
はあ、と息を吹きかけてごまかしていると、突然ダフが、「ああ!!」と叫んだ。

「ど、どうしたんだよ!?」
「ああああ、僕、基地に忘れ物してたんだ!明日提出の課題!!」
「なんで基地に!?」
「デンタクに教えてもらってて……で、まだ終わってないんだよ!ごめん先行くね、バイバイ!!」

止めるまもなくダフは走り去っていった。
えー、なんだよそれー、呆れてるのかからかっているのか分からない声でタミヤ君は言うと、僕を見ておどけた顔で笑った。

雨はまだ止まない。
それどころか、さらに勢いをますようだった。
こんなに酷くなるのだったら、そうなる前に雨の中でもなんでも走って帰ればよかった。


しばらく、僕らはボーっとしたまま、学校行事の話とか、テストの話なんかをした。
ポツ、ポツと尽きないこういう会話が僕は好きだ。
普段喋るのは得意ではないけど、相手がタミヤ君やダフなら緊張もしないし。
それに、タミヤ君は僕がどんな話をしても優しく笑って答えてくれるのだ。
とても心地が良かった。

「誰もいなくなっちゃったね」
「おー……」
「……ね、タミヤ君は高校のこととか考えてる?」
「まだあんまり、どこでもいいじゃん?みたいな感じでよー」
「そ、か」
「でも、カネダと一緒のトコがいいな」
「!」

カネダといんの、すげえ楽しいから。
ちょっと照れくさそうに言われて顔が熱くなった。

「で、でも、タミヤくんのが頭いいし、無理だよ、僕は……」
「なんとかなるだろ!」



その時に、知っている顔が僕たちの横をすり抜けた。

ゼラだった。

「あ、ゼラ。よお」
「『常川』だ、タミヤ」
「わりーわりー。お前、雨ん中ビッショビショんなって帰んのか?」
「僕はね、いつも先を読んで行動しているんだよ。君たちと違って」

そう言ってゼラは鞄の中から折りたたみ傘を取り出した。
無駄に勝ち誇ったような笑みを浮かべられたけど、これは悔しがるべき……?

「おーおー。で、今日はクラブ無いんだろ?」
「この雨ではな、人も集まらないだろう。じゃ、僕はこれで帰……」
「ゼラー!!!」

かき消すように声がして、ゼラが視界から消えた。
え?と思って下を見ると、ジャイボがゼラに抱きついていた。
抱きつかれた本人は、バランスを崩して尻餅を付いた。

「っジャイボ!いきなりなんだ、それに学校では常川って……!」
「きゃは、ゼラ、僕、傘忘れてきたの、もちろん入れてくれるよね?」
「なんで君は肯定することを前提に話を進めてくるんだ」
「ゼラ、寒いから早く帰ろう?」
「話を聞け!」

まったく……と、いつまでも抱きついている彼を押しのけると、ゼラは呆れ顔で立ち上がって制服の砂をはたいた。
昇降口で傘を開くと、ふと後にいるジャイボを見やる。

「ほら……入るんだろう?早くしろ」
「……ゼラ、愛してる!!!」
「よせ」

あくまで冷静に対処している。
……ように見えたが、よく見るとゼラの顔が赤くなっていた。

「早く帰れバカップル!」

僕の気持ちを代弁するようにタミヤ君が言うと、傘に入ったジャイボが少し振り返って、面白げに笑みを浮かべた。
二人の影が小さくなると、僕たちは気が抜けたように喋らなくなった。

雨もだんだん小さくなってきて、さっきより静かになった。

「……さむ……」

よく考えたら、こんな開け放された玄関で待ってることなんてなかったんじゃないか。待つなら、例えば教室とか。
寒すぎて歯がガチガチいった。
自分を抱くみたいにして体をさすっていると、タミヤ君がこっちを見た。

「カネダ?どうした?」
「……なに、タミヤ君は寒くないの?」
「うーん……あんまり?」
「……」

確かに血色の悪い僕の肌とは逆に、タミヤ君の頬は健康そうに赤みが差している。
あったかそうだな……





「――っ冷たっ!?」
「えっ?」

はっとして見ると、僕の手は彼の頬にのびていた。

「カネダ手ェ冷たいな、びっくりした!」
「ご、ごめ……」
「いや、そんなとは思ってなかった、大丈夫かよー……」

タミヤ君は心配そうに僕の手をとった。
摩られると、少しゴツゴツした大きい手から、温かさがジワジワと伝わってくる。
思わず手を引っ込めてしまう。
彼は一瞬驚いた顔をしたが、僕が恥ずかしがっているのだということを悟ると、いたづらっぽい笑みを浮かべた。

おりゃ!と子供っぽい声を出して、後ろから抱きつかれる。
体格差があったので、僕の体はすっぽり包まれてしまった。

「た、タミヤ、くんっ」
「冷えてんな、おーよしよし……」
「よしよしじゃないよっ、さ、さすんなくていいから……っ」

「カネダ、つべてーなー」
「……っ」

恥ずかしくてたまらなかった。でも背中にほわほわと温もりを感じて。
僕は少しだけ彼に体重を預けるようにもたれた。
それに気づいたのか、田宮くんの、僕にまわした腕の力が強くなった。
遊ぶように、頬にキスまでされて、何故だか溶けるんじゃないかってくらい熱い。
おかしい、さっきまであんなに寒かったのに。

「……カネダ……」
「……なに」
「雨、止んじまった」
「…………」



返事は返さなかった。
僕の口から次に出る言葉が、彼の腕から離れるきっかけになっては嫌だから。
じっと押し黙っていると、タミヤ君が言った。

「----な、カネダ……?」
「ん」
「俺んちさ、今日、誰もいないんだ」
「え?」

「父さんは泊まり込みだし、タマコは、母さんと一緒に友達の家に……で、二人は明日、帰ってくるん……だけど」
「…………」




「今日、うち来ない?」
「…………行く」



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猛烈に続きが書きたい(真顔)
でも完全にアッー!な展開に……うpできるだろうかorz

途中のバカップルは放っておいてくださいw←

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