日和短編

□ずっと...
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夜遅くの事だった。

どういう風の吹きまわしかは分からなかったが、閻魔はその夜、昼間に残った仕事を手に筆を進めていた。
半分ほど終わり、一息つこうと背伸びをした所で、ドアがノックされる。

あぁ、またか。

閻魔はドアを開ける。
案の定そこには、自分を抱きしめる様に腕を交差させながら俯いた曽良がいた。

「また…辛い夢をみたの?」

曽良は黙ったままこくこくと頷いた。
取りあえず、廊下は寒いから…と、曽良を招き入れ寝台に座らせた。

辛い夢…とは、簡単に曽良の過去である。
彼の幼少期の思い出は、はっきり言っていいものでは無かった。
親に捨てられ、色々な所にたらい回しされた揚句、虐めや虐待に遭うという、そんな環境の中で彼は育った。
その時の記憶が未だに夢に出てきて、自分を苦しめるのだと曽良は言う。

苦しい、なんていう感情はとっくに無くしてしまった閻魔は、どうしたら良いのか分からなかった。
聞けば、曽良の苦痛は悲しみや恐怖からきているようだ。
だからこうして曽良が部屋に来る時は、なるたけ優しく側に居てやる事にした。
いわば、軽いカウンセリングの様なものだ。

「…今日は……どんな夢だったの……?」
「…………………っ」

曽良は答えなかった。
それほど辛い夢だったのだろう。
閻魔は黙ったまま曽良を抱き寄せた。
曽良の方も、縋り付くように閻魔の胸板に頬をすりつけていた。


それから、10分が経った。
曽良はまだ不安げな表情で、閻魔にもたれ掛かりながら座っていた。
不安を少しでも和らげてやろうと、曽良の青白い頬に口づけをおとした。
すると、彼は顔を朱く染め上げ、それから、ちょっとだけ落胆した様に、やっと話し始めた。

「…………閻魔さん…も……」
「……………何…?」
「…閻魔さんも、いつか……僕…から……離れて、行くん………ですか……」
「……どういう意味………?」
「……………今日………」



「……今日、閻魔さんが居なくなる夢を見ました……」

「……………………!」

そう言うと同時に、先程からずっと潤んでいた曽良の瞳から、ぽろぽろと涙が流れ落ちた。
初めて聞いた夢だ。
今まで曽良が見ていた嫌な夢は、どれも過去のものばかりで…。
混乱した閻魔はどうしたら良いのか分からず、かたかたと震える曽良の背中を摩ることしか出来なかった。

「閻、魔さん…っが 、「バイバイ」…て……ひっく……急、に居なく……な……て……!!」
「……………うん、うん………」
「っ…追ぃ、かけたのにっ……届かな、く、てぇ……ぁ、やだ……もぉ…言いたく…な、い……っ!」
「……もう………いいよ……?…ねえ……言わなくていいから……っ」

曽良、と強めに呼ぶと、彼は泣き腫らした目で怯えた様に閻魔を見た。
もう一度、今度は唇に軽く口づける。
それからぎゅっと抱きしめながら閻魔は言った。

「俺は、どこにも行かないよ。曽良の側にずっと、居てあげる……だから、安心して…?」

最後に「愛してる」と、付け加えると、曽良は子供みたいに泣き崩れた。


―――――――――――――

初小説!

ところで、何で曽良は
閻魔と一緒に冥界にいるんだろ。

……どーでもいいんです。
 

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