操花の花嫁 弐

□一巻 新たなる予言
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一巻 新たなる預言

<其ノ一 失われた力>




真っ暗な闇。
自分が立っているのか、浮いているのかさえわからない、深く、暗く、孤独な空間。


「私……。」


どうしてかわからない。
いつの間に来たのか、いつからいたのか、どうしてこんな場所に招かれたのか、記憶を手繰り寄せてみても心当たりはなく、思いだせなかった。


「多恵ちゃん?」


いつも近くにいる人の名を、呼んでみる。


「翔(カケル)…悠さん…遥さん…光輝(コウキ)さん…氷河さん……?」


答えなど、返ってくるはずがないとわかっていた。
それでも、わずかな期待を込めてあてのない空間をただひたすらに進む。


「ここ…どこなのかな?」


前に進んでいるはずなのに、感覚が支配されているからか、ずっと同じ場所にとどまったまま。
自分の体さえ見えず、まるで自分自身が闇そのもののように溶け込んでいるかのようだった。


「…───…っ!!?」


もう一度、全員に呼びかけようとしたが、突然差し込んできた強い光の放射線に目がくらむ。暗闇に慣れ過ぎた瞳を細めながら、その光の正体を突き止めようと顔をあげてみると、淡い桃色に光を放つ小さな石があった。

とても綺麗なのに、ひどく怖い。

手を伸ばせば届く距離にあるのに、知らず身体は後退していた。


「なっ…なに?」


身体から目に見えるほどの光があふれだし、意識が朦朧(モウロウ)としていく。
ふらふらと景色を揺らしながら、戻っていくのを感じた…────


「──…っん?」


なんだか、ひどく身体がだるい気がする。
目をあけてみるとそこはいつもの天井で、自分の部屋の中に特にこれといった変化は見当たらなかった。


「夢…どんな夢だっけ?」


うまく思いだせないが、気にするほどの夢じゃなかったように思う。
それよりも今朝は、ゆっくりしていられない。


「ん〜〜。」


大きく伸びながら、深く息を吐き出す。
寝巻を脱ぎ去ると、いつもの着物にそでを通した。
普段通りの朝。
何も変わらない、静かな朝。


「さてと…今日から多恵ちゃんがいないから、頑張らないと。」


キュッと、帯を締めるついでに気を引き締めてから、まだ寝てるであろう同居人たちを起こさないように華はそっとふすまを開けた。


「おはよう、華。」

「光輝さん!?」


驚いて目を丸くする華の目の前で、右目に眼帯をした白髪の男がゆるくほほ笑む。


「お…おはようございます。」


まさかふすまを開けた先に光輝がいると思っていなかった華は、顔を赤くしながら小さく挨拶をかえした。


「どうかしたんですか?」

「いや、少し気になってな……。」


珍しく言葉を濁す光輝に、華が首をかしげる。


「気になるって、な…に…っ…!」


何が?と続けたかったのに、あごに添えられた光輝の手に阻まれる。
顔を下げることも出来ずに、朝から光輝の顔がゆっくりと近づいてくるのをどこか他人事のように眺めていた。


「──…ッ!?」

「アカンやん、光輝くん。抜け駆けはなしって、決めたはずやけど?」


ねぇ?と、背後からからみつくように抱きすくめられた華と、いまだ華のあごに手を添えたままの光輝の唇の重なりは一本の指に隔てられていた。
耳元で聞こえる独特の声に、誰かなんて聞かなくてもわかる。
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