操花の花嫁 弐
□三巻 闇より訪れし魂
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「多恵ちゃんに……心配かけちゃ悪いと思って………」
「結局、心配させてるじゃないのっ!!」
「……はい、ごめんなさい。」
素直に謝った華に、多恵のそれは深い深いため息が落とされた。
「そんなに頼りないかな?」
ぽつりとつぶやいた多恵の言葉に、華は「えっ?」と、首をかしげながら顔をあげる。
「たしかに、あたしは人間だし……それに、特別な力なんて持ってるわけじゃない。
だけど、みんなのことは大切な仲間だって思ってるし、何か困ったことがあれば力になりたいのよ。」
「……多恵ちゃん…ありが…──」
「それなのによ!?」
「──…ッ!?」
「華ちゃんの力がなくなって、変な奴が襲って来たっていうのに、おちおち団子が丸められるとでも思ってんの!!?」
「「………。」」
もう華と翔は、多恵を黙って見つめ返すことしかできなかった。
相当心配してくれていることはよくわかったのだが、怖かった。
日々、忍び一族の頭領を束ねてきた男たち相手に奮闘していたからか、はたまた、それが御影の血なのかはわからないが、多恵は怖い。
「ごめんなさい。」
「……すみませんでした。」
たしかにこの屋敷に住まう多恵にも事情を知る権利はあっただろうし、心配をかけてしまったことも事実だ。
せめて、朱禅のことだけでも三つ子に伝言を頼めばよかったと思った。
そうして謝った華にならって、翔も謝った。
不服そうな翔の声から察するに、本心は団子屋に帰ってほしそうだったがここでそれを指摘できる華じゃない。
本当は多恵の安全を考えれば、すぐにでも団子屋に行かせるべきだと思う。
でも、多恵は何を言っても絶対に団子屋に帰らないということも知っていた。
「なんて顔してんのよ……ほら、もう怒ってないから顔あげて。
翔、お茶。」
「……はいはい。」
「はいは、一回ッ!!」
負けたとでも言うように苦笑しながら腰を上げた翔の最後の抵抗も、多恵にかかれば容赦ない。
あごで翔を使う多恵はたいしたものだと思うが、それがいつもの多恵に戻った気がして華は顔をあげた。
「ありがとう、多恵ちゃん。」
さっき言えなかったお礼は、今度こそ遮られることなく多恵に届いた。
すっと部屋を静かに出ていった翔を見送っていた多恵は華の言葉に気づくと、向きなおってニコリと笑って見せる。
「もう、苦しくないの?」
華ちゃんはすぐに無茶するんだからと、疑り深い目を向けてくる多恵に、華は笑顔でうなずいた。
「うん、本当に大丈夫だよ。」
安心させるように着物の合わせ目を少し広げてみせた華に、多恵はようやくホッと胸をなで下ろせたようだった。
はぁ〜っと、困ったように吐かれる息に、不謹慎ながら少し嬉しい。
「ありがとう。多恵ちゃん。」
以前は敵対していた御影忠康の娘である多恵とは、この一年で親友というよりかは家族に近しい存在になっていた。
同じ年にも関わらず、なんでも器量良くやってのける多恵は、その面倒見の良さから、今では母親的立場にいる。
「なに、嬉しそうに笑ってんのよ。」
「え?」
そんなに顔に出てるだろうかと両手をほほにあてた華の姿に、多恵もどこか嬉しそうな目をむけた。
「でも、その天羅?……って、やつも酷いことするわね。」
「うん。私も驚いちゃった。」
「華ちゃんの力が無くなってなかったら、一発なのにね。」
「………。」
相手を殴るかのように、腕を伸ばした多恵の言葉を否定できない。
自分でもどうして力が消失したのかわからないだけに、解決方法が見つからなかった。