操花の花嫁 弐
□二巻 封印の王
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息のそろった遥と光輝の合わせ技に部屋を追い出された周と玄は、ドンっと床でも壁でもない何かに激突する。
「おっ? そろいもそろって変な現れ方しよるのぉ〜。」
「「悠さんっ!!?」」
善を肩に担いだ悠がそこにいた。
「久しぶりじゃな、元気しちょったか?」
わしわしと頭を撫でてくれる悠が主人だったらどんなによかったかと思うのは、何度目だろう。
しかし、すぐにその思いは後悔することとなる。
「遥んとこに連れて行こう思ったんじゃけど……お? そうじゃ、一緒に行かんかの?」
「「……えっ?」」
「遥ぁ! おまんとこのガキが…──っ!!?
なっ……なんね!?」
さっきまで三つ子が存在していた部屋を勢いよく覗きこんだ悠は、その直後に自身を襲った巨大な雷風に目をまたたかせた。
「おまんら、いきなし何するんじゃっ!!」
善を放り投げた悠の周囲に、大小様々な炎があがっていく。
「「邪魔。」」
殺気全開で言い放たれれば、そこにもう一つの殺気が加わる。
「エエ度胸じゃっ! 灰にしちゃるっ!!」
真夏の室内は、灼熱地獄と化していた。
熱いだけで流れるのではない汗が、三つ子の全身を伝っていく。
「なんで、いつもこうなんの?」
「今更言うたかて、しゃぁないやろっ!?」
「周ぅ〜…帰ろうやぁ〜。」
「そんなん出来る訳ないやろっ!?」
目を覚ますなり懇願してくる善に、周が巻きおこる轟音に負けないように声を張り上げた。
善は、ひきつった顔で首を横にふる周から黙ったままの玄に身体をすりよせる。
「なぁ〜〜…玄〜。こんなけ荒れとるんやし、見つからへんってぇ〜〜…はよ帰らな、多恵に殺されてまう……」
「………。」
「なぁ〜。げぇ〜ん〜──」
「……今、死ぬ?」
「──っ!!?」
「善……あきらめ。」
同じ顔が泣くのを同じ顔が慰める。
なんとも奇妙な光景に、一筋の光が差し込んだ。
「一体、何をしておるのだ?」
「「「氷河っ!!」」」
いいところに通りがかってくれたと瞳を輝かせる三人をどこか不思議そうに見つめていた氷河は次の瞬間、廊下まで飛び火してきた火の粉に事情を悟ったようだった。
これで助かる。
ホッと胸をなで下ろしたのも束の間、向井兄弟はそろって身震いをおこす。
「さぶっ!? ゆ……雪ぃぃぃ!!?」
「少し待っておるがよい。」
「その前に凍ってまうっ!!」
涼しい顔で戦場の中に身を投じた氷河に、善の叫びは届かなかった。
ひゅぅ〜っと、なんとも凍りつきそうな風が三人の肌をさしていく。
「ううぅ……短い人生やったなぁ……。」
「善、縁起でもないこと言わんといてや。」
「………。」
寒さに身を縮ませながら善が遠いところを見つめるのを、周と玄は見つめていた。
「アカン……もう感覚が……周、玄……こんなアホな長男で、よーさん迷惑かけてしもてゴメンやで。」
「そんなこと……善っ!?…死なんとって……」
「………。」
「僕ら……三つ子でよかった…って思てくれたら…嬉しいわぁ……」
「何言うてんの!? 当たり前やんか!」
「………。」
「ホンマ?……おおきに。」
「「──…っ!!?」」
寒さに凍る善の涙が、燃え盛る炎によって溶かされていく。
嵐の中でどんどんと力を失っていく善に、周と玄はそろって大きく目を見開いた。
ハッと空気がとまる。
ぱたりと動かなくなった善が信じられなくて、周は善の体を引き寄せた。
その姿に、玄が放心する。
「あれ? こんなところで、どうかしたの?」