操花の花嫁 弐

□二巻 封印の王
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「翔のせいではなかろうな?」

「だったら、おもしろいがな。」

「えぇ〜。おもろないと思うんやけど……ねぇ?」

「なんね?」

「そういう結果になるんやったら、俺がやりたかったわぁ〜。って話し。」

「……おまんは、物騒じゃな。」

「いやいや、烈くん使って事故に見せかけようとした悠くんに言われたないんやけど?」

「しかし、あれは良い案であった。」

「読みが甘いがな。」


重なり合うようにして囁き合う彼らは、焦ったように翔を呼ぶ華の声を幾分か都合のいいように解釈したようだった。
しかし、現実は当然ながら違っている。


「翔っ!!」

「華様、落ち着いてください。」


翔とささやかな朝をほほ笑みあっていた華は、突然叫んだ青年に大きく肩を震わせる。
その直後から、まるで焚きつけられるように苦しみ始めた青年の様子に、華は焦って翔に助けを求めた。

華の戸惑う声とは対照的に、翔の声は落ち着き払っていた。
即座に状態を見極めると、華が握り締めている薬を渡すように手を伸ばす。


「華様、それを。」

「あっ…そっか……はい───っ!!?」


翔に薬を手渡そうとした華の手は、昨夜同様、寸でのところで掴まれた。
息をのんだ華の悲鳴に、ふすまが大きく開かれ嵐が駆け抜ける。


「待って!!」


華の手首を握り締めたままの彼は、灰にならずにすんだ。


「和歌……。」


うつむいたまま半身を起こすその声に、華の心臓がはねる。
その場にいる全員が、ただならぬ空気をまといながら次の行動を見守っていた。


「……封印が……。」

「封印?」

「もう…持ちそうにない……。」

「えっ?」

「…──すまぬ。」

「「「「「「「………。」」」」」」」


ずるりと崩れ落ちるように気を失った青年が、華から放れ落ちた。

それですべてだった。


「華様っ……ご無事ですか!!?」


翔が生気の失った顔で華の手首を確認する。
泣きそうな翔をどこか他人事に見つめながら、華は自分の心音が鳴りやまないことに気づいていた。


「華ちゃん、ほんまに平気なん?」

「…えっ!!?……あっ…あぁ、はい。
……大丈夫です。」


珍しく心配そうに顔を寄せてくる遥さえ、どこか他人事のように感じる。


「なぜ止めた?」


光輝の声は、怒りを隠してはいなかった。
華が制止しなければ、寝息をたてる男の姿は現存していないことになっていたはずだったのに。


「許せん。」


光輝の体から、バチバチと音が聞こえる。
それをなだめるように氷河が光輝に首をふった。


「昨日も…──」


ポツリと華が口を開いたことで、光輝の意識は男からはなれた。
同じく、氷河や悠、遥と翔も華に顔をむける。


「昨日も…和歌って人の名前、呼んでた。」

「昨日?」

「封印って……何かな?」


答えを求めるように、華は意識を失った青年を見た。

ただの寝言とは思えない。

それは、掴まれた手首の感触が華につげていた。
震えるようにすがりつく彼の手に心臓すらわしづかまれたようで、ひどく苦しい。


「ねぇ……和歌って人、探せないかな?」
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