生命師-The Hearter-
□第1章 ライト帝国
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結局、意気投合してしまったテトラとハティは、数分前までとは比べ物にならないほど打ち解けあってしまった。
その会話の内容は、むずかしすぎてついていけない。
「ロベルタ様は、お元気ですか?」
テトラとハティをひきつった顔で眺めていたら、ふわりとルピナスに質問を向けられた。
こちらの方が会話が弾みそうだと、ナタリーは座りなおしながら笑顔をかえす。
「はい。祖父をご存知なのですか?」
「生命師でロベルタ様を知らない方は、おりませんよ。
あなたが生命師になられた時、ロベルタ様に孫がいたと、たいそう噂になりましたから。」
「そうなんですか?全然知りませんでした。」
「今はもう、生命師の血を引く人はほとんどいませんし…先の戦争でたくさん失ってしまったでしょう?
生命師の誕生なんて嘘に違いないって言う人もいたのですが、ロベルタ様の孫ならば納得だと、誰もが声をそろえてうなずいてましたよ。」
ルピナスは、そこでなにかを思い出すようにフフッと笑った。
「ですが、あの有名な最年少生命師が、このような可愛らしい方だと知っていれば、もっと早くにお会いするべきでしたね。」
「えっ!?」
「もう、特定の思い人はいらっしゃるのですか?」
ボンっと、音が出たんじゃないかと錯覚するほど全身が熱い。
社交辞令だと言い聞かせても、面と向かってさらりと口説き文句をいってのける男相手に、その効果はなかった。
「そ、そそそんな人いません。」
「それは、よかったです。」
「!!?」
どういう意味かと真意を尋ねたくても、ナタリーの口から声が出てこない。
何か言わなければと、目の前でニコニコとほほ笑むルピナスの視線を避けてるうちに、ギムルの叫び声が店内に響き渡った。
その声に驚いた店員が何事かと飛んでくるが、先ほどナタリーへと意味深な言葉をなんなく言ってのけた男が、その店員をやんわりと追い返す。
「すみません。大丈夫です。」
片手で制したルピナスに、店員はあっさりと引き返していった。
慣れているなと素直に思う。
「さて、原因はなんでしょう?」
にっこりとほほ笑んだルピナスの声が、騒ぎの元凶をめざとくとらえた。
どうやら原因は、ラブの体の仕組みと、ビーストの体の仕組みをあらかた交換しあったテトラとハティが、逃げるギムルを捕まえたことにあるらしい。
何故、愛くるしい姿をしているのに、中身が可愛くないのか調べてやろう。
どちらが言い出したのかは定かではないが、悪ノリが興じて、騒ぎになったことだけは、たしかだった。
「うっせぇなぁ。大人しくしろ。」
「そうだぞ、ギムル。」
「この野郎が! 2人とも顔が、笑ってやがる……ナタリー!! 俺なんか調べても無意味だと言ってやれ。この野獣どもに、俺様の偉大さを叩きつけてやれぇぇぇぇっぇ!?
おいっ! この…てめっ…兄ちゃん、耳をめくるんじゃねぇぇ!」
ギャーギャーと、いっこうにおさまらない喧騒を止めたのは、助けを求められたナタリーではなく、ルピナスの
「あなたがた…それ以上、目障りな騒音をたてられますと……消しますよ?」
という言葉だった。
笑顔がなんとも怖いルピナスを見て、ゴクリと唾を飲み込んだ2人と1匹は、お互いの口をふさぐ。
「よろしい。」
満足そうに、ルピナスが微笑んだ。
「怖ぇぜ。あの兄ちゃん。」
「あぁ。ルピナスは、怒らしたらヤベェんだ。本当に消されちまうから、気をつけろよ?」
「了解。」
白いからだを青くさせたギムルに続き、助言をしたハティにテトラが首をたてにふった。
「何か?」
小声で話していた3人の男どもは、チラリと視線をむけた微笑みの貴公子に、ぶんぶんっと音がするほど勢いよく首を横にふる。
「理解のある友人を持って、わたしは幸せですよ。」
「「「………。」」」
見事な主従関係の確立に、ナタリーは、ただ茫然と眺めていることしか出来なかった。