生命師-The Hearter-

□第1章 ライト帝国
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「最年少生命師と最高齢生命師ったぁ、いつ見てもエレェ差だな。」


ナタリーの左手の甲にも同じく生命師の証しである紋章が刻まれていることに目をとめたギムルが、はぁ〜と大げさに肩をすかせる。


「こらっ、ギムル!!」

「へぇへぇ、リナルド・ファー・ロベルタ様もナタリー・ファー・ロベルタ様も、立派な生命師さまさまですねぇ。」

「ギぃムぅルぅぅぅぅう!!」


その柔らかな身体をナタリーは、力任せに引っ張る。面白いほどによく伸びたが、見事に変形した形になってもハーティエストであるギムルにとって何の効果もないことはわかっていた。


「けっ、痛くもかゆくもねぇよ。俺はハーティストだぜ? 貧乳ナタリーちゃぁ…──んボヘッ!?」


怒りのまま地面に打ち付けたギムルが、ボフッといい音をあげる。少しは投げた甲斐があったと、ナタリーは息を切らせながら、薄汚れたギムルが起き上がるのを見つめていた。


「貧乳の上に、凶暴なんて最悪だな。」

「ギムルの口の悪さには負けるわよ!!」

「へんっ。」

「ふんっ。」


パンパンと両手をはたいて鼻をならしたナタリー同様に、ギムルもパンパンと自身をはたいてフンッと鼻をならす。
そうしてお互いがそっぽを向き合ったころに、遠くに見えていた馬車が、真横にまでやってきた。


「おはよう、ナタリー。おっギムル、今日は一段と可愛いじゃねぇか。」

「んだと!ホース。てめぇ、もっぺん言ってみやがれ!その体、燃やしちまうぞ。」


タイミングが最悪だ。
馬車をひいていた"木の馬"が、からかい半分にギムルに声をかけたせいで、ギムルの怒りの矛先はホースにむく。
しかし、ホースはカラカラと楽しそうに笑い声をあげただけだった。


「ナタリーも少しは、大人になってもらいたいものじゃな。」

「ちょっと!?リナルドじいさん…っ…もう!!」


ふぉっふぉっふぉっと、笑いながら馬車に乗り込む老人に、ナタリーはふてくされたように口をとがらせる。
足元を転がるように、ギムルが腹を抱えて笑っていた。


「やぁい、怒られてやんのっ。」

「誰のせいよ…もう…あっ、ほらギムル。そんなに転がるから、耳がめくれて紋章が見えちゃってるわよ?」

「おっと、いけねぇ。」


体を起こしたギムルの長い耳の片方が、めくれあがっている。そこには、ハーティエストの証である紋章が刻まれていた。

指紋と同様に一人一人異なるその生命師の紋章は、ナタリーの左手にあるものと同じ。


「俺様が、貧乳最弱生命師ナタリーのハーティエストだって、ばれちまう。」

「なんですって?」

「なんれもありふぁふぇん。」


その口を左右に引っ張りあげながら、ギムルを宙に浮かせたところで、ナタリーの背後に別の気配がかけよってくる。


「げっ…メアリー…」

「こらっ。ナタリー様もギムルも遊んでないで、早くホースの馬車に乗りなさい。」


それは、木で造られた生きた人形だった。
可愛らしいメイド姿をしているが、木目の浮き出たツルツルの肌には紋章がしるされている。


「リナルド様をお待たせしないで。」

「……はぁい。」

「ナタリー、早く乗れよ。」


いつのまにか馬車に乗り込んでいたギムルが、小さな手をふってせせら笑っていた。
可愛いのに、ムカつく。


「うるさいわね。今、乗ってるじゃないの。」


よいしょと、頭を少しかがめて馬車に乗り込んだナタリーは、当然のようにヒザの上に座り込んできたギムルに苦笑する。


「私とひっつくのは嫌なんじゃなかったの?」

「誰が、んなこと言ったんだよ。ここは俺の指定席って決まってんだぜ?」

「そうなの?」

「誰にもここは渡さねぇ。」


陣取るように座るギムルは、やっぱり可愛いと思う。
口さえ悪くなければ最高なのにと肩を落としながらも、ナタリーの顔はにやけていた。


「よぉし。しゅっぱぁつ。」


メアリーが最後に乗って扉を閉めた所で、ナタリーはホースに完了の合図を叫ぶ。
明るいかけ声にうながされた馬車は、青空の下、軽快に動き出した。

行く先は、ライト帝国の王都ラティス。

即位15周年を迎えるアズール・ライト皇帝の祭典に、生命師として招かれたのだ。

初めて生命師として、公の場に出席できる。

ナタリーの胸は、嬉しさで溢れかえっていた。
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