生命師-The Hearter-

□第3章 地図から消えた王国
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王女さま。

そんなもの絵本や童話の中だけに存在する夢物語だと思っていた。
ナタリーだって例外なく一度は、そういうものに憧れていた時期もある。

あったけど……

まさか、本当にそうなるとは思ってもいなかった。しかも、すでに滅亡している王国の生き残りだと言うのだから、笑えてくる。

最後の王女?

金色の王家の血筋?

ハーティエストを自由に操ることのできる伝説の代物をよみがえらせることが出来る?

17歳になったらプレイズが眠りから覚める……それまでにプレイズを探しだし、ウィザードやバビロイ公国や、ヴェナハイム王国の野望を阻止する。
戦争を起こさないようにするために。

全世界のハーティエストを守るために……


「…………。」


とてもじゃないけど、荷が重すぎる。
そんな尊大な計画の主要人物になるなんて、考えただけでも倒れそうだった。


「よいかナタリー。今や金色の容姿を持つものは、世界中で呪われた一族と称され、忌み嫌われておるものじゃ。」

「……えっ?」

「いつどんな危険にあうかもわからぬ。じゃが、このまま隠れて暮らしているわけにもいかぬのじゃ。ナタリーが17になるまでに、あと数ヵ月。動き出した歯車は、もう誰にも止められん。ナタリー、お前の運命もまたしかり……じゃ。」


何もかもがわからないことだらけの上に、突拍子もないリナルドの自白のせいで、ナタリーは唖然としたままわずかに後退する。


「運命は……変えられない?」


いや、こんな事実自体が誰かに仕組まれた運命だと思わざるを得ない。

あと数ヵ月。

たった数ヵ月しかないのに、15年間も存在不明のものを見つけることが定められた運命だと言うのだろうか?


「そうじゃ。」


リナルドは、迷いなくうなずいた。静まり返ったままの空気が、これが現実だと突きつけてくる。

誰も嘘だよって言ってくれない。

そんな話しがあるわけないだろって、笑い飛ばしてもくれなかった。


「そんな……」


戸惑いを表情に浮かべながら、ナタリーはギムルを抱いたまま首を横にふる。


「そんな、私には無理…だって私は普通の女の子で…そんな王女とか…プレイズとか……」


頭の中が、どうにかなってしまいそうだった。
自分が王女だと告げられただけでもいっぱいいっぱいなのに、与えられた使命は許容範囲を超えている。


「だっ…大体、モーナ村から出たこともないのよ!?どうやって探せばイイのか、見当もつかないし……それに、見つけたところでどうすればいいの!?
もし…ッ…もし、間に合わなかったら……」

「それでも行くしかないのじゃ。」

「……リナルドじいさん…」


ナタリーは、すがるように祖父の名を呼ぶ。けれど、リナルドは静かに首を横に振っただけだった。


「ウィザードがレオノールの秘宝であるプレイズを手に入れたら、ナタリーが思っておる以上に最悪の世界になるのじゃ。ギムルやメアリーだけでなく、ビーストもラブもターメリックも……キーツも皆、意思とは無関係にあやつられ、悲惨な末路を辿ることになるのじゃよ。」

「だけど……」

「ナタリーは、ギムルが好きかの?」

「……えっ?」


煮えきれない思いで唇を噛み締めていたナタリーは、ふいに吹き掛けられた質問に虚(キョ)を示す。

脈絡のつかめない質問の意図はよくわからなかったが、その質問にだけは、はっきりと答えることができた。


「大好き。だってギムルは、私の宝物だもの。」


ギュッと抱き締めたウサギの存在は、ナタリーの人生になくてはならないモノ。

大切な家族であり友達。

誰にも譲れない大事な命。

フワフワと温かなぬくもりを感じていると、胸の中からその生き物はピョコッと声を張り上げる。


「ナタリー!!俺様も、ナタリーが大好きだぁぁぁ!」

「……ギムル…」

「しけた面(ツラ)してんじゃねーよ!!やってやりゃいーじゃねーか!
こんな大役、めったに回ってくるもんじゃねーぜ?有名になるチャンスだろ?
なぁに、俺様がついてんだ!!不安になることは何もねぇよ。」


相変わらず口は悪いし、外見は可愛いが、その声が心なしか震えて聞こえた。

心は同じ。

いつも繋がっている、守りたいモノが、今、目の前にいる。
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