生命師-The Hearter-
□第2章 即位15周年祭
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そうして、ナタリーが初めて生命師として人前に立つ舞台に緊張する中、キラリと光った青い鳥は、その身体を旋回させながら眼下にのぞむ式典会場に目を光らせていた。
「本当に……いませんわね。金色の人物なんて、ひとりも見当たりませんわ?これだけ多くの人が集まっているというのに……おかしいったらありゃしない。」
文句を言いながら、コロンは左へ右へと視線を走らせる。
真上からみおろせば、花畑にいるのではないかと錯覚するほどに色鮮やかな人々の頭部が見えるが、その中に金色をもつモノは誰ひとりとして見当たらなかった。
「あっ、グスター王!!」
今まさに紹介された男の姿をとらえたコロンが、パキッとその口をとがらせる。
悠然と立ち上がりながら民の歓声にこたえる仕草は、実に自然なものだったが、コロンはその見せかけだけの姿に騙されないと大きくうなずいた。
「あんなに偉そうに……なによ……シオン様がどれほど苦労なさっているか、わかっているのかしら?
自分のその目で探してみるがいいわ。グスター王の目にさえ、金色の髪を持つものは見えないでしょうよ!!あぁ……もし、本当に見つからなかったら、シオン様に変わって、このあたしが串刺しにしてやるんだから!!」
とても冗談には聞こえない言葉を叫んだコロンの声を聞き届けるモノはいない。
誰もが、意識をもうひとつの大陸をすべる国王に向け、その美しいたたずまいに見惚れていた。
それをまたフンッと一喝してから、コロンは金色の少女探しに意識を戻す。
「カーラー・レオノールって人の血筋か何か……よくわからないけれど、関わりを持ってそうなのよね。」
そこで、昨夜のことを思い返したコロンは、複雑な心境を含んだ息を吐き出した。
レオノール。
その言葉を口にした途端、あきらかにシオンの表情が変わったように見えた。動揺したのか、バッと口元を押さえ、何かを探るように地面を見つめる。
心配になって「大丈夫?」とコロンはたずねたが、「なんでもない」と、たった一言でなかったことにされてしまった。
「あれは、絶対何か知ってらっしゃるわね。」
そう浅い関係でもないだけに、コロンは確信を持ってシオンの様子を思い浮かべる。
そのシオンが今はどこにいるかわからないが、どこにいても聞こえる式典の様子を気にもかけていないことだけは確かだった。
たぶん、現在紹介されている実の父親の姿さえ目に入っていないだろう。
「生命師が参列している空席のひとつは、シオン様のものですのに……残念ですわ。シオン様が参加なされば、もっと華やかな式典になったでしょうに!!そして、その隣はもちろんあたし!!
世界中が、このブルスフィアのコロンにため息を吐きながら見惚れること、間違いないしですわ!!あぁ……想像しただけでも素敵ッ!!」
額に手を当てながら、一人演技でもするかのように高い塔のひとつに降り立ったコロンは、そこから真っ直ぐ前方にもうけられた式典の舞台へと顔を向ける。
「大体あのとき、グスター王とカーラーって人と一緒にいたのは、アズール皇帝なんですのよ?
それなりに3人が親しかったのでしたら、なぜ今日の式典に、その人の席がないのかしら?」
もう一度、自分の記憶を思い返すように頭を悩ませたコロンは、たしかに金色の人物の横にいたのは、若きアズール皇帝だったと、ひとりうなずいてみせた。
面影が残るその容姿は、グスター王同様に民に愛想を浮かべながら壇上(ダンジョウ)に立ち上がる。
「同じ王様でも、えらい違いですこと。」
皮肉たっぷりに鼻をならしたコロンは、自国の王と比べるように、人々の歓声をうけるアズールを眺めていた。
誰からも愛されていそうでいて、きちんと国をになう王としての威厳をもっている。名だたる著名人の中にいてもなお、柔軟に対応し、温和にことを運べるだけの器量と雰囲気をもった人物だった。
その人物が、いれ違うように腰掛けたグスターを確認してから口をひらく。
「今日は、わたしとこの国のために集まってくれたことを感謝する。」
誰もが、皇帝の言葉を聞きもらすまいと息をのんで見守っているのが伝わってきた。
「この15年もの間、わたしはハーティエストの人権を確立させ、人間との共存を夢ではなく実現させようと努力してきた。マリオット戦争で得られた教訓をいかし、滅亡したレオノール王国のように…──」
「レオノールが滅亡ッ!!?」
「──…ハーティエストと人間がひとつの国の中にあり続けることが出来るのは、みなのおかげだ。だが、多くのハーティエストと共に生命師の多くも、その命を失うこととなった。
あのような悲劇を繰り返さないためにも、今一度、ハーティエストとその命を誕生させる生命師を歓迎しようではないか。」
「ちょ…ちょっと!? 何よ!! えっ? どういうことなのよ!?」
われんばかりの拍手が響く中、コロンの動揺した声は宙を舞う。あきらかに、混乱した顔を眼下に向けながら、聞き間違いだと言い聞かせるように首を左右へふった。