操花の花嫁

□一巻 預言の姫
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「しかし、残った草薙の者はあまりにも少ない。
この十七年の間で私たちの生活も大きく変わってしまいました。」


申し訳なさそうに声を落とす伊織に、華は言葉をのみ込む。


「宿を探してらっしゃるのなら"京"という都に、草薙の者がおりますので、そしらを案内します。」

「原田さんとか言ったわよね。
なぜ、わたしたちが宿を探しているとわかるのかしら?」


華を翔の方へ寄越しながら、燕は伊織を睨む。


「そこの……。」


伊織が指差した先を一匹の蝶が舞っていた。

華のまわりを蝶は一回ぐるりと取り囲むと、その姿を再び家路を急ぐ人の中へと消していく。

蝶から視線を戻した時には、もう伊織の姿はそこにはなかった。


「行きましょ。」


華がそう声をかけると、燕と翔は無言のままその後ろに続く。

目の前を流れるように、ヒラヒラと舞う蝶のあとを三人は歩いていた。
無言なのは、それなりに緊張感を保とうとしているからなのか、草薙一族の現状を目の当たりにしたからなのかはわからないが、この張りつめた空気をやわらげるように華が話し始める。


「でも、今夜の宿、見つかってよかったね。」

「油断は出来ませんが、とりあえずといった所でしょうか。」


翔が苦笑しながらも華の口車に乗った。


「原田さんは、多分大丈夫だと思うよ。」

「確かに、虫を操ることが出来るのは、草薙一族のそれですが……」

「ここは風見一族の領地なのよ?」


翔の言葉をついだ燕が話に加われば、いつもの三人に戻る。


「いくら草薙の者でも、風見に手を貸すってことも考えられるじゃない。」

「でも…。」

「でもじゃないの。
華は、そうやってすぐ他人を信じちゃうんだから。」


困ったものだと燕は、左右に首をふった。


「そこが華様の良いところです。」


しゅんとうなだれる華に翔が優しい声をかける。


「華様が大丈夫だと判断されたのであれば、大丈夫ですよ。
何かあった時のために、こうして自分が傍にいるのです。
ですから、いつもご自身の思う通りに進んで下さい。」

「翔。」

「華様。」


道のど真ん中で、立ち止まる二人を、

「はいはい。
このわたしも忘れないでよね。」

と、燕が割ってはいる。

夕陽もすっかり影を落とし、翔が燕を睨む顔は華から見えなかったが、燕が翔に対して舌を出したのに気付くと、

「二人は仲良しさんだね。」

と、見当違いの笑顔で二人を困らせる。


「翔……道のりは遠いわね。」


燕のつぶやきに、翔は答えなかった。
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