EVE516〜記憶の欠片〜
□Ep,00 プロローグ
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Ep,00 プロローグ
《c-01 拾われた少女》
ぶ厚い雲におおわれ、冬も目前に迫っているためか、いつもより肌寒い。
西暦2199年11月9日。
あれほど緑濃く、水に不自由のなかった日本は、いまやその面影さえなくしていた。
荒れた大地がどこまでも続き、なかなか晴れないせいで作物は育たない。
23年前に終結した第三次世界大戦の影響は、いまなお人々を苦しめていた。
「やっぱり、この辺もダメなようだな。」
「隊長、こっちも無理みたいっす。」
そう返答した男に続いて「こっちも」「こっちも」と声がふたつ続く。
「酸性雨の降りにくい場所だったんだが……。」
「隊長、土が通常よりも汚染レベルをこえてるっす。」
独特の機械を土に突き刺した先ほどの男がそう告げれば、「そうか。」と短い返答がくる。
「次のポイントを調べるか。」
「はい。おーい!洋平(ヨウヘイ)、勇斗(ユウト)行くぞ〜。」
「あいよー。」
「えー。」
適当に返事をする男と、声そのものに面倒臭さを含ませる男に、
「てめぇらが、ちんたらしてるから俺の隊だけになっちまったんだろうがっ。」
と、最初の男が振り返った。
非の打ち所がない容姿端麗なその男の顔は、苛立ちでひどくゆがんでいたが、それさえも美しいといえる容姿は、いささか不公平のようにも思う。
「別にいいじゃん。」
面倒そうに答えた男が口をとがらせる。
天然なのだろうか?髪はフワフワと軽やかで口調からみてもどこか幼い印象を受けるが、均整のとれた体つきが彼をそうは見せない。
「まっ、あきらめろって。」
ポンッとその肩に手を乗せるのは、赤茶に近い髪と右耳にあいた5つのピアスが目を引く男。
スラリと細く、妙な色気がある。
「はやく終われば、はやく帰れるぞ。」
土に突き刺していた機械を片付けながら、二人を呼んだ男が苦笑すれば、「ちぇ。」と、あきらめたような声にふたつのため息が答える。
「にしても、寒みぃ〜。」
「勇斗は、まだいいじゃん。」
俺なんか超薄着じゃんっと続ける男は、本当に薄着で、マフラーさえ巻いていなければ春服かと思える。
「大体てめぇは、おおちゃくすぎんだよ。」
「えー。一誠(イッセイ)さんが細かいんじゃん。なぁ、勇斗?」
「そこで俺にふるなよ。」
「まぁまぁ、夜にならない内に帰るには急がないと……。」
一番着こんでいそうなのに、まったくそれを感じさせない男は、片付け終わった機械をかかえて、言い合う3人を先へうながす。
「それもそうだな。将吾、時間は?」
「あと30分が限界っすね。」
核戦争後、黒い空からは酸性雨が降り続き、水も大地も汚染されてしまった。
分厚い雲からは、時折太陽の光を地上に届けるもののつねに空に浮かび、四季を無くし、異常気象を引き起こしていた。
地上で活動できるのは、朝と夜の2回限られた時間だけ。
「C区とD区の間もやっぱ、地下に頼るしかねぇな。」
頭を悩ませる姿さえサマになるが、本人にいたっては真剣そのもので、彼の目に見える荒れた大地がそれを物語っていた。