操花の花嫁 弐
□五巻 守護する者
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〈其ノ二 五つの源〉
夏の夕暮れは長い。
ゆっくりと太陽が西の彼方へ沈んでいくが、空は燃えるような赤さを残したまま、闇を起こすことをためらっているようだった。
「どうやら、ここまでのようだ。」
先陣切って走っていた光輝の制止によって、華たちはそろって歩みを止める。
眼前にそびえたつ岩山は、砦というにふさわしく、いびつで異様な形をし、顔を真上に向けても頂上が見えないほど高かった。
はるか上空を飛んでいる彰永丸が、鈍色(ニビイロ)に光って見える。
「……高いね。」
見上げたままつぶやいた華の言葉に、
「そうですね。」
と、翔が答えた。
「鳴戸さんの言っていた洞窟の入り口は、どのあたりでしょう?」
「う〜ん…あっ、あれじゃない?」
ほぼ垂直に近い岩肌の隙間に、それらしきものが見える。
響の言っていた通り、ここを訪れる人間がいるのだろう。
山の中腹辺りにもうけられた洞窟まで、簡易な梯子(ハシゴ)がかけられていた。
しかし、残念なことに寸断されている。
「まぁ、当然のことだな。」
光輝がよくあることだと、腕を組んだ。
「でも、どうやってあそこまで行くの?」
登れないことはないが、全員で両手をふさがれる状態は避けたい。
せめて足場になりそうな箇所があれば、そこを踏んで、飛んでいけるのだが、あいにくそういった足場もなかった。
「他の入り口はありませんよ?」
翔が、響の説明を思い返すように考え込むしぐさを見せる。
「日没まで、時間がない。」
他に入口があったとしても探している暇はないと、光輝が翔の考えを遮断した。
空はもう、沈みかけてる。
いくら夏の夕日が長いといえど、永遠ではない。
闇が訪れた時の光景は、想像したくなくても、容易に想像できた。
「はいはぁ〜い。
俺の存在、忘れんとってねぇ。」
最後尾で風の力をあおいでくれていた遥が、ひらひらと手を振ったことで、それぞれがおおいにうなずく。
「だが、目立つ。」
「どうせ、向こうも俺らが来るんわかってるんやから、こそこそしたって一緒やと思うんやけどねぇ?」
ニコッと、遥が笑みをむけて光輝の隣まで歩み寄った。
ピッと遥の指が洞穴の入り口をさす。
「入り口前の開けた箇所に、かろうじて太陽の光が届いとる場所あるやん?
あそこまで全員を飛ばすことは、簡単なんやけど……どうする?」
「行かない選択肢があるのか?」
「ないねぇ。」
遥の提案は、全員が納得して了承した。
「では着地次第、すぐに戦闘態勢がとれるようにしておきましょう。」
降り立った先に待ちかまえているものが、かすかに見えてしまっただけに、華達は気を引き締め直す。
草木が生えていない山には、虫や動物もいない。
そのため、持ってきている道具の全てが武器のすべてだった。
有効的に使わなくては、内部の状況がわからないだけに最悪を招く。
遥が翔から閃光弾の使用方法を再度確認し直したところで、ニッと目を細めた。
「行くで?」
言葉とともに身体が舞う。
まるで羽が生えたかのように持ち上がった身体は、勢いを増して岩肌を駆け抜け、さきほど遥が指差した場所の真上で重力に後押しされた。
瞬間、バチリと大きな閃光が鳴り響く。
「華様ッ!!」
翔の声で、華は後ろから伸びてくる鋭利な影をよけることが出来た。