操花の花嫁 弐

□二巻 封印の王
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<其ノ三 古の姫君>



朱禅が目を醒ましてから、気がつけばもう五日がたっていた。

相変わらず華の部屋に朱禅と名乗った男は入り浸り、しがない一日の大半を二人きりで過ごしている。
とは言ったものの、朱禅は全快ではないのか半日以上眠っており、火がついた翔の研究魂のせいで本当の二人きりとは言えなかった。

穏やかに寝息をたてる朱禅は、この五日もの間、華と翔のかいあってか心身共に安定し、これといった問題はない。
むしろ問題なのは、日増しに不満が募っていく彼らにあった。


「ちょ〜……ホンマにやめてやぁ……。」


こんな天気のいい朝なのにと、寝起き一番に額に張り付いていたらしい紙切れを目にした少年が青ざめた顔でうなだれた。


「ん〜…善…朝から何言うてんの?」


半分寝ぼけた声の少年が、隣でいまだ青ざめたまま紙切れを見つめる少年へと顔をむけた。


「周……玄も起こして。」

「なんでやの?」

「はよしな、遥さまに殺されるぅぅうぅぅぅ!!!」

「「はぁっ!!?」」


少年の泣き声で、しっかり眠っていたはずの三人目も半分寝ていた二人目同様跳ね起きた。
次の瞬間には、温かさの残す布団を残したまま彼らの姿は部屋から消える。

数分もしないうちに大量のみやげを抱えた三人組は、どこか緊張した顔で一軒の屋敷を見上げながらそろったように息をのんだ。


「あれ??……いらっしゃい。」

「華さんっ!!」

「これ……。」


どうしてこんなところにいるのだろうかと、朱禅のために朝食を運んでいた華が、そっくりな三人組を見つけて立ち止まる。
三面鏡にうつしたようにそっくりな三つ子は、向井三兄弟、またの名を"風見の三つ子"といい、知る人ぞ知る風見一族の忍びだった。


「ごめんね、いま手が離せないから、翔にでも渡してもらえるかな?」


その内の一人から、大量の団子が入った箱を差し出された華は、苦笑混じりに断ると、先へ急ぐ。
その姿をどこかボーっと眺めながら、三つ子は気づいたように顔を見合わせた。


「遅かったやん。」


華に言われた通り朝食後の後片づけをこなす翔に団子を渡した後、そろって通された部屋にはこの世の悪魔がいた。
ニコニコと恐ろしいほどの笑顔で三つ子を部屋へと招き入れる。


「なんや、遥さま機嫌ええやん。……ん? ほなら、なんで僕ら呼ばれた…っ!!…────」


男の笑顔を額面通りに受け取った長男は、現れて早々消える羽目となってしまった。


「俺がいつも迷惑かけてるみたいに聞こえたんやけど?」


気のせい?と、脅迫してくる主人に残る二人は、頭上を舞っていった善に哀悼の意をささげながら首をたてにふる。


「あぁ…そない思てたんやねぇ。」


その瞬間に、三つ子の次男も宙を舞っていた。
理不尽だと思う間もなく、最初の兄に続いた次兄の姿に、最後のひとりはゴクリとつばを飲み込んだ。


「玄くんも不満なんかなぁ?」


ものすごい勢いで、無言のまま玄は首を横にふる。
その必死さのかいあってか蹴り飛ばされずにすんだ三男の横に、もう大丈夫なのか少しぐったりした二人が復活を遂げた。


「今、虫の居所悪いねん。」

「なんでですん?」

「華ちゃんが相手してくれへんから。」


すねたように口をとがらせる元・風見の頭領に、三つ子は顔を見合わせる。


「呼んだんは、暇つぶし。」

「えぇ〜〜……やっぱりかぁ。そんなことやろ思てんって……遥さまが紙切れよこすんて、大抵そんなんやん。」

「「善っ!!?」」

「だってそーやんかぁ?
遥さま"たち"が使いもんにならへんからって、毎日人間にこき使われる身になってみいやぁ。あの二人、僕らがっ……────」


再び言葉の途中で消えた少年がいたはずの場所には、なぜか右目に眼帯をした男が立っていた。


「なにか居たか?」


見下ろしてくる殺気に双子と化した向井兄弟がそろって身を寄せ合うと同時に、蹴り損ねたことで苛立ちを増した遥が極上の笑みを見せる。


「光輝くん、俺の子らを勝手に蹴らんといてほしいんやけどねぇ?」

「きさまと同等に扱われたのでな。」

「え? なんて?」


よう聞こえへんかったわぁと、遥までが見せる殺気に笑い返せるのは、現時点で光輝しかいない。
善は吹き飛んでいってしまってよかったかもしれないと、内心うらやましく思った二人はその刹那、身体が宙を舞っていた。


「「邪魔。」」
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