操花の花嫁 弐

□二巻 封印の王
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〈其ノ二 青年の目覚め〉




「……和歌。」


そう小さくつぶやいて、彼は目をさました。


「あっ、気づかれましたか?」


除き込んでくる少女に数回またたくと、彼はもう一度「和歌?」と首をかしげた。
華は、ゆるくほほ笑んで首を横にふる。


「草薙 華と申します。」


そう自己紹介した華に、彼は驚いた顔を見せた。


「そんなに似てらっしゃいますか?」


華は苦笑する。
時間が遡ること数十分前、ようやく沈み始めた赤い空の下で、華達はそろって大きなのびをした。


「お〜。昼寝もいいもんじゃなぁ〜。」


悠が上機嫌で第一声を放つと、すっかり回復したらしい面々がそれにうなずいた。
もちろん華も含まれる。


「おはようというよりかは、こんばんはですね。」

「そのようだな。」


氷河がどうしようもないといった風に、華の言葉にかえす。


「怠惰にすごす一日も案外、良いものだな。」

「でも、心なしか身体がだるいんやけどねぇ〜。」


ゴロゴロと遥が華にむかって転がれば、案の定光輝の足にはばまれた。
ニコッと笑顔の火花が散り始める。


「華。調子はどうじゃ!?」


相変わらず無邪気というべきか、その合間を縫うように悠が華に問いかけた。
ニコッと穏やかな空気が流れる。


「心配かけてしまったみたいで、ごめんなさい。」

「なんね、謝ることじゃなか。」

「ありがとうございます、もう大丈夫ですよ。」


よかよかと、ひとり大きくうなずく悠を押しのけるように翔が前に進み出る。

気まずい沈黙。


「ごめ…──」

「申し訳ありません。」

「えっ?」


華が謝るよりも早く、翔が盛大に頭をさげた。


「どっどうして翔が謝るの!?」

「華様の深いお考えも気付けず、頭ごなしに否定してしまいました。」

「へっ!?」


もしかしたら翔はまだ、夢の中なんじゃないだろうか?と華は思う。
言っていることが理解できなかった。


「まだ害をなすものと決まっていないのに男というだけで勝手に害だと決めつけてしまい、挙句、華様を傷つけてしまいました。」

「えっ!?」


そこまで深く考えていなかった華は、いきなりの翔の発言に驚く。


「う……ううん。ワガママ言ったのは私だったし、その……傷つけちゃったのも私のほうだし……。」

「いえ。華様に嫌われて当然の報いです。」

「そんなことないよっ!? 私が翔のこと、嫌いになったりする訳ないじゃない!!」

「ですが……。」

「本当だよ! 私、翔が大好き!!」

「華様っ!」

「翔っ!」

「「「「…………。」」」」


めでたく仲直りを果たした二人の脇で、顔を引くつかせた男が四人。


「翔くんって、結構えぐいよねぇ〜。」

「きさまが言える立場か?」

「なんね? 仲直り出来てめでたしじゃろ。」

「悠は本当に相も変わらずだな。」


見つめあう二人をそんな風に見つめる四人の前で、華がふいに立ちあがった。


「では、着替えてきますね。」


何が"では"なのか、話しを切り替えるように部屋を出て行こうとする華を全員が不思議そうな顔で止める。
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