操花の花嫁 弐
□一巻 新たなる預言
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〈其ノ三 通り過ぎた嵐〉
「あっ……嵐が止んだみたいですね。」
先ほどまで絶え間なく響いていた怒号がやんだことに気付いた華は、自分の布団の上で変わらず寝息をたてる男へと顔をむける。
彼は、見れば見るほど不思議な人だった。
生きてるのが信じられないほど傷だらけにも関わらず、苦しがったり痛がったりすることはない。
それに、一度は歩いてみせたのだ。
「もう、心配ないですよ。」
安心させるように、華は言葉をかける。
意識の戻らない彼に話しかけたところで、何も答えてもらえないことはわかっていた。
それでもこうして話しかけてしまうのは、名も知らない彼が気になって仕方がないからなのかもしれない。
「少し、にぎやかなところですけど……悪い人たちじゃないですから、安心してくださいね。」
時刻は、太陽が西に沈むころ。
優しくほほえむ華の言う"いいひと"たちは、そろって縁側に腰掛けながら更地になった庭を眺めていた。
「なして、こげなことになっちゅーがじゃ?」
「仕方なかろう。ああなっては、もう誰も手がつけられんのだからな。」
「ここにきて初めて、多恵ちゃんに居てもらいたいと思ったかもしれへんねぇ〜。」
「同感だ。」
汗ばむ夏の暑さにも関わらず、涼しげな顔でぼんやりと空を見上げる男たちの耳には、何故かゴリゴリと断続的に響く音が聞こえている。
「翔くんが作ってるんて、ホンマに薬やと思う?」
にこりと遥がほほえんだ。
「さてな。」
ふっと、光輝がそれに答える。
「誰かが試せばいい。」
「なして、そこでわしを見るんじゃ!?」
「えぇ〜。悠くんやったらいけるかなって?」
「首を傾げるんじゃなかっ! それじゃったら、一番年下の氷河が適任じゃなかと!?」
ビシッと悠に指差された氷河に、遥と光輝の視線が流れる。
それをさらりと受け流そうとした氷河は、顔を向けた先に満面の笑顔をたたえる翔を見つけて凍りついた。
「わたしは、断じて飲まぬ。」
「これは……氷河のものじゃないですよ?」
「「「「…………。」」」」
不気味に笑う翔の口調に、そろってのどを鳴らす。
「翔が敬語じゃ……。」
「これで華様は、解放されます。」
悠の言葉を聞かなかったことにした翔の心底嬉しそうな顔に、遥が笑顔で近づいた。
「やっちゃうのぉ?」
翔の手の中にある、小さな白い玉を見つめて物騒な言葉を口走った遥に光輝の視線が面白そうに伏せった。
が、翔はそれを通り越すほどの笑顔で、
「自分が華様を悲しませるとでも?」
と返す。
「……やんねぇ〜。」
「だろうな。」
残念そうにつぶやいた遥と光輝の横で、氷河が人知れず胸をなで下ろしていた。
それも見なかったことにした翔は、そっと華の部屋の方へ顔をむける。
「華様と夜をともに過ごさせはしない。」
強い決心をこめた声だった。