生命師-The Hearter-
□第1章 ライト帝国
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《第2話 王都ラティス》
悲しい夜から一夜あけ、ナタリーたちは昼過ぎになる頃、ついに王都ラティスにたどり着いた。
「あ〜、疲れたぁ〜。」
あらかじめ予約を入れていた宿に荷物を置いてシャワーを浴びたあと、長旅で疲れた体を伸ばす。
ようやく窮屈な馬車の中から解放され、すっかり固くなった体はパキポキといい音がなった。
「おっさんだな。」
「失礼ね。あっ!やったぁぁ!今夜は、ベッドで眠れるのねッ。」
早速見つけたベッドの上に、ナタリーは飛び込む。
スプリングがきしんで、ナタリーの身体は軽く跳ねた。
「気持ちぃ〜。このまま寝ちゃいそう…──」
「ドリャァァァッ!」
「──…ぅっ……」
見事に後頭部に飛び込んできたウサギのせいで、夢見心地の気分が吹っ飛んだ。
「やったわねぇ!」
ギャーギャーと楽しそうに騒ぎあう2人を横目に、リナルドはソファーへと腰を落ち着ける。騒ぐナタリーには聞こえなかったが、それと同時に、軽くドアを叩く音が部屋に響いた。
「あら。どなたかしら?」
楽しそうな声をあげるナタリーの代わりに、メアリーがドアに手をかける。
「あら、まぁ…さぁ、どうぞ。」
笑顔のメアリーに招き入れられた人物は、黒い短髪をした2人の男。
年も背丈も違うが、よく似た顔の作りは、2人を親子だといっていた。
「さっき、ついたばかりなんですよ。リナルド様、デイル様が見えましたよ。」
背の高い、がっちりとした中年の男が、メアリーのあとに続く。
その後ろを背の低い青年が続いていた。
「テトラ、ナタリー様はベッドルームよ。」
誰かを探すようにキョロキョロと視線を泳がせていたテトラは、顔を真っ赤にしてからクスクスと笑うメアリーにお礼を言う。
笑うと人懐っこさが見える彼も、父親同様に立派な腕を持っていた。
「相変わらず、騒がしいなぁ。」
ベッドルームに顔をのぞかせるなり、テトラは苦笑する。
「おっ!テトラじゃねぇか。こんなとこまで追っかけとは、はるばるご苦労なこったな。」
「ちょっ、ギムル!?」
意地悪な笑いを浮かべたギムルをテトラは、慌てて黙らせようとする。
「ウワァッ!?」
「──…キャッ?!」
ドンッと後ろから突進されたらしいテトラが、ナタリーの上に乗っかった。
いきなり押し潰されて、混乱したナタリーがテトラの下で暴れる。
「ギャハハハハ…ビーストっ!ナイス、ナイス。」
ギムルが、笑い転げながらベッドの脇にたたずむ機械の犬にむかって白い手をふった。
「よう、ギムル。奥手の主人を持つと世話が焼ける。」
ギムルと同じように、その機械の大型犬は楽しそうに笑い声をあげる。
「プハッ…死んじゃ…ぅ…いったい何が…あら、テトラじゃない。久しぶり。」
真上に覆い被さる人物に気付いたナタリーは、身体を反転させながらテトラを見上げた。
「テトラ!? どうしたの?」
真っ赤な顔のまま動こうとしないテトラに、ナタリーは心配になって首をかしげる。
「欲情中〜。」
「「えっ!?」」
ナタリーとテトラが同時に驚愕の声をあげると、ふたつの大きな笑い声がそれに答えた。
「あれ?ビーストも!?
えっ?なんで?」
「父さんについて来たんだ。」
はぁ〜と、脱力したように身体を放すテトラの先に見えたデイルの後ろ姿にナタリーは納得する。
「そっか、デイルさんも生命師だし…式典に出席するのね?」
「そういうこと。」
テトラに引っ張り起こされるようにして、ナタリーは起き上がった。
その勢いのままナタリーはデイルの元に走っていく。
「こんにちは、デイルさんっ。」
「久しぶり、ナタリー。すっかりキレイになって……ますますリナルド様は、心配で目が放せませんな。」
そう言って目の前に座るリナルドに、デイルはナタリーにむけていた視線を戻した。
「あまりナタリーを調子にのせるでない。」
「またまた。いや、俺もね生命師でもないくせに、メルカトルの機械職人がなんでライト帝国の式典に興味があるのかと不思議だったんだが……こりゃ、テトラも、うかうかしてられないはずだ。」
「えっ?」
「ちょっ!? 父さんまでナタリーに変なこと吹き込むなよ!
俺らは、ただの幼馴染みだって!なぁ?ナタリー。」
「えっ?うん。そうだけど?」
たしかにリナルドを頼り、何かと家に来ていたデイルに引っ付いて、遊びに来ていたテトラとは幼馴染みのような間柄だ。小さい頃から毎日のように一緒に遊んでいた。
しかし、いくら近いとはいえ、住む国が異なる上に、機械職人としての腕が認められるようになったテトラとは、ここ数年顔をあわせていなかった。
「…ッ…ナタリー!せっせせせっかくの祭りなんだ。外にいかないか?」
墓穴〜墓穴〜と、からかうギムルとビーストの笑い声の合間を縫うようにして、テトラは真っ赤な顔でナタリーを誘う。
少し不審に思うナタリーの横から、
「おっ。いいなっテトラ。
俺も行くぜっ。」
と、ギムルが真っ先に声をあげた。