生命師-The Hearter-

□第6章 命の聖地エルトナ
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第6章 命の聖地エルトナ

《第1話 王のいない国》



ナタリーたちがライト帝国を旅立って5日目……アズール皇帝が暗殺されてから3日目となる今日の新聞は、全世界に衝撃をもたらしていた。

もう、アズール皇帝が亡くなったことを知らない人はいないんじゃないかと思えるほど、動揺が人びとの口から口に伝染し、ついにライト帝国の政府はこう発表する。


"アメリア女帝の命により、ライト帝国内における全ハーティエストを強制回収する。"


皇帝を殺害したのが生命師であると報道されたことから、ハーティエストの存在に不安を覚えていた人たちは、すかさず賛成の意向を示した。
けれど、身体の不自由な人たちや高齢の老人、工場労働者たちなど、生活に深くハーティエストと共存している人たちにとっては複雑な心境が否定できない。

所詮モノ

大事なモノ

その論争が各地でまきおこっており、もはや世界中でハーティエストのあり方についての議論の場がもうけられていた。


「全ハーティエストを強制回収するですって!?どうしましょう……ハティ様が帰ってくる前に、私たちが殺されてしまうわ。」

「あ…アンジェ様…を残して…死…死ねません!」

「私だってそうよ、ターメリック。でも、もうじき兵たちが家々を回りはじめるに違いないわ。私たちは顔もわれているし、見つかるのは時間の問題でしょうね。」


真っ先に調べられるであろう三大名家の屋敷は、すでにもぬけの殻になっている。
ルピナスやアンジェたちはまだ塀の中、ジュアン達は今も変わらずリリスの館に身を潜めていた。

この館のある高級住宅街は、ハーティエストを雇っている人たちが大勢いる。
強制回収といっても、兵たちは骨がおれる作業になるだろう。

すぐには、ここまでこられない。

しかし、ラブの言うようにここも時間の問題なのは目に見えていた。
現に、朝をむかえたばかりの王都では、事情を知ったハーティエストたちが困惑にざわついている。


「ジュアン様とリリス様は、まだ眠ってらっしゃいます。」


強制回収という字を見つめながら、この屋敷の家政婦的な立場にいるマジョリアも、ラブとターメリック同様に、その眉をひそめた。

新聞に目を通すことが出来たのは、不幸中の幸い。

情報を手に入れていれば、こちらから、うかつに捕まったりはしないようにできる。


「「「ッ!?」」」


3人が頭を悩ませていると、突然、扉を強く叩く音が屋敷を襲った。
ドンドンと急(セ)くようにして力任せに、扉が音を荒げていく。


「誰もおらんのか!?わしじゃ、リナルドじゃ!!」

「「「リナルド様!?」」」


小声ながらにも聞き覚えのあるその声に、マジョリア達は顔を見合わせてから、窓から玄関の方に視線をのぞかせた。

黒いマントの下から、わずかにのぞく長いひげと左手の紋章が本人であると告げている。


「いっ今、あけます!!」


マジョリアが転がり出るようにして、全身を黒いマントで覆った2人組を中へと招き入れると、それは確かにリナルド本人で間違いなかった。


「助かった、礼を言うぞマジョリア。やはりここにおったか……みな、その様子を見る限りでは、事態の深刻さは理解しておるようじゃな。」


どこかホッと安堵の息を吐き出したリナルドが、マントを脱ぎながら老体をいたわるように近くの椅子へ腰掛ける。
それの介助をしたのは、いつもの木の人形ではなく、大理石の青年だった。


「メアリーたちは、デイルに頼んでメルカトル王国に非難しておる。心配は無用じゃ。」

「わたしは、リナルド様に無理を言って連れてきていただいたのです。それで…それで、アズール様が殺害されたというのは、本当なのでございますか!?」


昨日、モーナ村で朝を迎えたリナルドたちは、王都から一日遅れてアズール皇帝の訃報を知る。生命師逮捕という衝撃の事実も記載されていることから、先手を打ってメアリーたちをデイルに託し、こうして一日かけてキーツにここまで走らせてきた。

ハーティエストは、疲れを知らない。

リナルドを肩に背負ったまま、一度も立ち止まることなく丸一日走り続けたキーツは、息ひとつ乱さずに、マジョリア達に真相の究明を求める。


「残念ですが……アズール様は、お亡くなりになりました。」


ガシャンと、キーツが床にひざをつくようにして崩れ落ちた。唇にあてるその手が、カタカタと小刻みに音をたてている。


「何があったのじゃ…詳しく話せ。」


普段は見えないふさふさの白いまゆ毛の下に隠されたリナルドの眼光にうながされて、マジョリアたちは知っている限りのことを口にした。
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