生命師-The Hearter-

□第5章 動き始めた世界
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《第3話 まだ知らぬモノたち》



アズール皇帝が暗殺され、地下牢に捕らえられたハティ達がロキの話しをきき、シオンがロベリアを仲間にせざるを得なくなった滅茶苦茶な一日があけた朝も、世界中はイヤな天候を継続させていた。

つまりは、名もなき村で滞在しているナタリーたちは、動きようがないまま、その日を無駄に過ごさざるをえない。
丸一日降り続いていた雨は、やむ気配さえ見せないまま、延々と地上に大粒の涙を打ちつけていく。


「うおぉぉお!?」


雨にも負けず、プロメリア王国に向かう特急列車の中で、その独特の声が大きく響いた。


「少しは静かにしろ。」


朝から他の乗客に迷惑をかけるなと言わんばかりに、向かい側で受け取ったばかりの新聞にむかって叫ぶイシスに、クレアは冷たい視線を送る。
しかし、長い付き合いゆえに、それが何の効果も与えられないことはわかっていた。

はぁ…と、あきらめた息を吐きながら、クレアは真剣に新聞に顔を近づけるイシスに話題をふる。


「金髪の王女でも見つかったか?」

「ちゃうちゃう、そんなんちゃうで!!」


コパートメントにふたりきりとはいえ、興奮したイシスに話しかけたのが悪かった。
その綺麗な顔に、クレアは新聞を押しつけられる。


「近すぎて見え……ッ!?」


見せる気があるのかないのか、よくわからないイシスの手首を引きずり下ろしたクレアは、それと同時に、その瞳を驚愕に見開いた。

"アズール皇帝暗殺!?犯人は、3人の生命師!!"

目の前にぶらさがる新聞の一面に堂々と描かれた見出しの言葉に、他のことにあまり興味の示さないクレアの意識は引き寄せられていく。
ガシッとイシスから新聞を奪うと、疑心に満ちた声を震わせながら文面を読み始めた。


「おとつい深夜から昨日明朝にかけて、アズール皇帝が自室で殺害された。アイリス皇后も重傷をおわされ、一命をとりとめたものの意識はまだ戻っていない……らしい?…ライト帝国政府は、現場にいた生命師たち3人を皇帝殺害の現行犯で逮捕…──」


新聞を読むクレアの声だけが、列車と雨の音に混ざって響いていく。


「──…正門に残された"ライト帝国に神のご加護"をの文字から、ウィザードによる犯行にみせかけた計算的な犯行とされ、現にその時間に正門をあけたのは、生命師パスによるものだと確認がとれた。ライト帝国政府は、現在も現場の捜査中……」


あらかた読み終えたクレアが、信じられないという表情で、新聞から顔をあげた。
その一部始終を観察していたイシスが、嫌な笑顔をみせる。


「邪魔なアズール皇帝と、生命師……これで、ハーティエストに苦しめられる現実に、ちょっとは希望の光が見えてきたんとちゃうか?」


なにか裏がありそうな物言いに、クレアは、いぶかしげな視線をイシスにむけた。


「ウィザードの犯行だと思うのか?」

「どうやろ?少なくても俺はちゃうけど、生命師がアズール皇帝を殺すわけあらへんやろ。」


確信をもって言い切れると、イシスはクレアから新聞を引き継ぐ。

その文中にも記されているように、ハーティエストとの共存社会を目指していたアズール皇帝は、他のどの機関よりも生命師たちと親密にしていた。
それは世界的にも有名な話だと、イシスはクレアに考えをのべた。


「生命師が皇帝を殺す動機があらへんやん。」

「だが、現行犯だろ?その場にウィザードと関係する者がいなかったのだとすれば、考えられるのはふたつだけ。逃がしたか、初めからいなかったかのどちらかしか存在しない。生命師がウィザードと連繋(レンケイ)することのほうが、俺にはあり得ないことだと思うがな。」


殺害時刻の裏付けがとれる生命師パスによる開城、殺害現場でとらえられた生命師。
それだけで判断するなら、生命師による犯行に不審な点は見当たらないと、クレアは客観的意見を口にする。

ウィザードと生命師たちの仲は、いわずとしれた正反対の組織同士。
根本的な部分から違うこの2つが手を取り合うことだけは絶対にないと、クレアは自信をもってうなずいた。
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