生命師-The Hearter-
□第4章 フォスターの足取り
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《第4話 生ける屍》
なかば不時着した夜の町は、想像以上に賑やかなところだった。
町……いや、村?
もう深夜も間近な時間帯だからか、あかりは乏しい。
それでもなにかが徘徊する気配だけは、至るところで感じられた。
「……ぎ…ぎもぢ悪…ぃ…」
想像が暴走したテトラと、蛇行運転に興奮したギムルの操縦で、よくも無事にたどり着くことができたものだとナタリーもオルフェ同様に車外に転がり出る。
新鮮な空気をすわないと、それこそ生きた心地を取り戻せそうになかった。
「……オルフェ、大丈夫?」
「ナタリーこそ…ッ…生きてる?」
「な…なんとか……」
はぁ〜っと、長い深呼吸を繰り返すうちに、オルフェも落ち着きを取り戻してきたらしい。
ナタリーは、疲れたように車体に背を預けながら、へたりこむオルフェに苦笑の顔をむける。
「みたか、このギムル様の操縦は世界一だぜ!最高な空の旅だっただろ?なっ、ナタリー〜。」
「そ…そうね……」
「ほら、みろテトラ!ナタリーは俺様の味方だぜー!」
頭に飛び乗ってきた白ウサギをまともに、相手にする元気なんて残ってない。
どうやら、ひとり元気なテトラでさえ、ギムルとのハンドル攻防戦にうんざりしているようだった。
「あまりギムルを甘やかすなよな。」
「うん、ごめん……気を付けます。」
本当に、次からはちゃんと注意をしておこうと、ナタリーが頭のうえにいるギムルを両手でつかんだ時だった。
「「「「ッ!?」」」」
深夜には似つかわしくない、甲高い悲鳴が周囲一体に響き渡る。
「なっなに!?」
ギムルを強く抱き締めながら、ナタリーは不安を口にした。
一瞬にして緊迫に包まれた薄暗い街。
なぜか、いい予感がしない。
「ねぇ、テトラ。行き先きいてなかったけど、ここってどこ?」
酔いからさめたオルフェの声が、冷静に起き上がってくる。
テトラもどこか緊張した表情で、周囲を警戒していた。
「えっ……わかんねぇ。」
「わかんないって、どういうこと?」
「適当に、明かりがある街に降りたってみたんだけど……まずかったか?」
とりあえず、ひとけがありそうな場所を目指してみたと、声だけでオルフェに答えたテトラの顔がひきつっていく。
ナタリーも心臓が早くなっているのを感じていた。
「ナタリー。生命詠唱で、フォスターの法則を浄化する方法って知ってる?」
「う…うん。一応、リナルドじいさんに教えてもらったけど……」
「それなら、よかった。ナタリー、たぶん生命師として初仕事になると思うよ。」
「……えっ?」
ゴクリとノドをならしたオルフェが、腰から短刀を引き抜いてかまえるのを見つめながら、ナタリーは首をかしげる。
生命師として
その意味は、ものの数秒で理解することができた。
「なっなんだよ、ありゃ……」
テトラの大きく見開かれた目が、ナタリーやオルフェの眺める光景と合致する。
亡者の群れ。
そういっても過言ではないほど、生気の失った軍団がゆっくりと集まってきた。
「あれが、生きる屍だよ。」
「「ッ!?」」
「僕も実際に見るのって初めてだけど、間違いないと思う。」
生きる屍。
フォスターの法則と呼ばれる方法で、不特定多数に産まれたハーティエストたち。
「ほんっとに……なんでもありなんだな。」
テトラの腰がひけるのも無理はないと思う。
人形、家具から始まり、服、靴、本、はては刃物まで、モノというモノがひしめきあっていた。
「命を魔法と勘違いした罰だって、なにかで読んだことがあるよ。」
掃除をするのが面倒だから、ホウキに魂を吹き込んで掃除をさせる。
遊んだあとに片付けるのがいやだから、ボールが自分で家に帰れるようにする。
生で演奏が聞きたいから、楽器を自分で動けるようにしよう。
今日は仕事に行きたくないから、変わりに書類が自分で会社にいってもらおう。
人々の願いは尽きない。
フォスターの法則は、人々の怠惰(タイダ)な夢を叶えてしまった。