生命師-The Hearter-
□第4章 フォスターの足取り
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《第3話 利欲の暗流》
トレニア王から得た情報は、これから先の旅に欠かせないものだった。
向かう先は、命の聖地エルトナ。
フォスターがプレイズを持って行ったかも知れない場所。その近くに9人目の生命師もいる。
そうしてナタリーたちが、夜の空へと飛び立つ中、ここにも旅をする2人の男がいた。
「なんやねん、この記事は!!」
バンッと、扉……ではなく、窓枠まで割りそうな勢いで正面の窓から不法侵入してきた赤髪の男に、室内の男は冷めた視線を送る。
「そろそろ来るだろうと思っていた。」
なんとも落ち着き払った声で、室内に迎え入れたのは、まぎれもなくクレア・バーディ司教。
そして例外なく、その手には不法侵入者のイシス同様、今朝の新聞が握られていた。
「なんで、俺がお前とハムの嫁探しに行くことになってんねん!?」
「こっちが聞きたい。」
「まだレオノール王女の手がかりすら見つかってへんのやで?」
そんなことに時間をさいている余裕はないと、イシスは困ったようにクレアの元へと近づいていく。
「だいたい生命師を嫁にて……世界中えらい騒ぎやで?さっきも教会前の広場……ん?」
クレアとの距離が、あと一歩というところまで来てやっと、イシスは違和感に気づいたように首をかしげた。
「こんなとこにおっていいん?」
外では、ひどい騒ぎになっている。
ハウ王子はもとより、パードゥン公は一体何を考えているつもりなのかと、人々が弁明を求めて教会前の広場に押し寄せていた。
ハーティエストのいない国。
生命師のいない国。
絶対神バイパラの加護のもとに栄える唯一無二の土地。
人間だけの聖なる国。
それを自ら汚すとはどういうことかと、怒声と悲鳴が飛び交っている。
「ウィザードのイシスとクレア司教様を2人きりでプロメリアに行かせるなど、神の天罰がくだるーいうて……ほら。」
そう言ってイシスは、クレアのもとへ拾ってきたらしい一枚のビラを差し出した。
"公は堕ちた。司教はウィザードに脅されている。裏切り者に天罰と神の使者に救いの手を"
どうやらバビロイ公国だけでなく、世界中に張り巡らされたビラらしい。
なにも信者は、バビロイ公国の人たちだけではない。
「戦争の前に、内乱がおこりかけてんで?」
それなのに、司教であるクレアは自室で閉じ籠(コモ)っていてもいいのかと、イシスは顔をしかめる。
「……ふ。」
それと同時に、クレアが嘲笑の息をこぼした。
「天罰……?いっそ、この手でくだしてやりたいくらいだ。」
「………。」
「この俺が、いったい今までどれだけのフォローをしてきたと…──」
うつむくクレアの手の中で、音を荒げて新聞にシワがよっていく。
そして同時に、公からの使いだという使者が、クレアの部屋の扉をたたいた。
「クレア様!パーティー妃様が、早くこの事態をなんとかしろと仰(オオ)せです。」
「──…付き合いきれん。」
鼻で笑い飛ばしたクレアは、足元の小さな荷物を手にとると、イシスをそっと手招く。
「行くぞ。」
「………知らんで?」
呼ばれるままに、窓枠へと近寄ったイシスが体を前に乗り出した。
「かまわんさ。俺は、どうやらお前とプロメリアに旅立つことになっているらしいからな。」
フッと笑ったクレアに、イシスもフッと笑い返す。
そして、2人そろってバビロイ公国を抜け出した。