生命師-The Hearter-

□第4章 フォスターの足取り
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《第2話 もう一人の王女》



肌をさすような緊迫した空気。
そんなもの、生まれてこの方、一度だって味わったことはない。

頭に、白いターバンを巻いた何十人という数の武闘派集団。その誰もが、大型のライフルのようなモノをかかえ、少女の首筋にナイフを当てている中心の男を背に、プロリアズランドを占拠していた。


「プロメリア王制は、これで終わりだ!!」


声高らかに叫んでいることを分析してみると、どうやら、現在の王制に異議を申し立てるゲリラ集団らしい。
貧困にあえぐ民の不安を背負い、生ける屍の対策もままならない国政に不満を持っている。いまここに王族の敗北を宣言しろと、人質をとって誰かに交渉しているようだった。


「……ひどいわ。」


地上から目と鼻の先のゴンドラの中で、ナタリーは誰にでもなくつぶやいた。

見た所、人質としてとらえられているのは、自分と変わらない年頃の少女。
空も暗くなり、遠目では正確に判断しにくいが、15〜16歳と言ったところの若い女の子のように思える。


「……あれは!?」

「えっ?」


隣で大きく目を見開いた同乗者に、ナタリーは首をかしげた。


「金髪……?」


スッと細くなった濃紺の瞳につられて、もう一度窓の外に視線を向けてみると、たしかに金色ともとれる髪色をしていた……気がするが、残念なことに、それをじっくり観察できる高さは当に過ぎ去っている。


「悪い…──」

「え?」

「──…先に行く。」


ナタリーが驚いたのも無理はない。

いったいどうやったのか、テトラたちが待っている搭乗口につく一歩手前で、ファーストキスの相手は、いとも簡単にゴンドラを開けてしまった。


「うおぉッ!?」


てっきりナタリーしか乗っていないと思ったに違いない。
豆鉄砲をくらった鳩のように立ち尽くしていたテトラたちは、突如出てきた美麗な少年に心底驚いた声をあげる。

同じように虚につかれたように目をまたたかせながら、ナタリーは一人地上に降り立った。


「……は?…え?」

「あれ?僕たちゴンドラ間違えた?」


風のように駆け抜けていった正体を見送りながら、テトラとオルフェの現実逃避の声が追いかけていく。


「ナタリー〜〜〜〜ッ!!会いたかったぜぇぇぇ!!ヒドイじゃねぇか!!俺ものりた…っ…乗りたかったあっぁぁ!!」


涙を流すことが出来ない代わりに、盛大な泣き声をあげるギムルが、ここぞとばかりに抱きついてきた。
それを受け止めた瞬間に、ナタリーは意識がハッと戻って来る。

こんなとこで、ボーっとしてる場合じゃない。


「ゴメンね、ギムル。それより、テトラ、オルフェ!!大変なのよ!!」


銃を持った連中が、垣根をこえた向こうの通路に大勢いることを思い出した。

ナタリーはギムルの頭をあやすように撫でながら、まだ首をかしげているバカな男たちを呼び戻す。


「そっそうだ!!ナタリー、大変だよ。グレナーダが出たんだ。急いでここを出なくちゃ。」

「……グレナーダ?」

「プロメリア王制と生ける屍の滅亡を願ってる、過激派ゲリラのことだよ。先週もこのあたりでテロがあって、何人か犠牲になってるんだ。巻き込まれたらシャレにならないよ。」


オルフェが真剣に話しかけてくるが、ナタリーにはその内容を聞けば聞くほど逃げることなんて出来なかった。


「「ナタリーッ!?」」


テトラとオルフェの声が同時にナタリーを呼びとめる。


「ちょ…ッ…おいッ!!」

「テトラ、行くよ!!」

「おっおう!!」


後ろから追いかけてくることがわかったので、ナタリーも足を止める気はなかった。

だって、見てしまった。

捕まっているのがどんな人なのか知らないが、少なくとも、走っていったあの少年のことは知っている。
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