生命師-The Hearter-

□第4章 フォスターの足取り
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第4章 フォスターの足取り

《第1話 世界最大のテーマパーク》



ナタリー達が命からがらにスカイシップに乗り込み、シオンが列車の中でため息を吐き出す頃。ここ、ライト帝国王都ラティスでは、上流階級の屋敷が並ぶ邸宅のひとつで、一人の女性が優雅に午後のティータイムを堪能していた。


「アンジェ姉さん、こんなとこで何やってんだよ。」


まったく寝ていないのか、全身をひどくくたびれさせたハティが、部屋の扉をあけるなりソファーに直進する。紅茶を飲みながらそれを眺めていたアンジェは、ソファーにうなだれるようにもたれかかったハティのあとに続く、この屋敷の主人に笑いかけた。


「ルピィ、お茶いただいてるわよ?」

「見ればわかりますよ。」


ハティ同様、ルピナスも一睡もしていないといった表情でアンジェのもとへと歩み寄ってくる。


「図書館にいらっしゃるとばかり思っていたのですが、もう調べはついたのですか?」

「いいえ。」

「じゃあ、なんで姉さんはこんなとこでサボってんだよ。」


ルピナスに席の半分をあけ渡しながら、ハティは目の前のアンジェにいぶかしげな顔を向けた。


「あら、失礼ね。これでもちゃんと仕事はしてたわよ?」


こっちは二日も徹夜続きなのにと、白けたような空気を訴えかけるルピナスとハティに向かって、アンジェは心外だと口をとがらせる。

しかし、その言葉が過去形なことに対して、ルピナスとハティはそろって深い息を吐き出した。


「しょうがないじゃない。膨大な資料の数に息がつまりそうだったのよ!!いくら探したって、それらしい情報が記された書物は見つからないし、あの静まり返った独特の空気……あたし苦手なのよね。しかも、あの館長!!ムカつくって言ったら、うるさいってあたしのこと追い出したのよ!?」


信じられる?と、アンジェは憤慨したようにカップをテーブルへと叩きつけたが、想像できるだけにハティもルピナスも何も言わない。
だいたい、アンジェが国立図書館でプレイズとフォスターの資料を集めると言い始めた時から、少なからずこうなるだろうことは予想していた。


「けど、丸1日ももたねぇってどーなんだよ。」


先が思いやられると、ハティが頭を抱える。
せっかく地下の書物庫が終わったところなのに、次は図書館かよとぼやいているのが聞こえてきた。


「あら、図書館の方は心配しないで。」


機嫌を取り直すかのように、アンジェはハティとルピナスに顔をあげる。


「今は、ターメリックが図書館で引き続き資料を探してくれているわ。」

「単独行動はしないようにと言われていたことをお忘れじゃないでしょうね?」

「ええ。だから、あたしはこうやってルピィの家にお邪魔させてもらってるんだし? ああ、ターメリックならジュアンのところのマジョリアが一緒だから安心していいわよ。」


言われたことは、きちんと守っているとアンジェは胸を張っているが、すでに仕事をしていないその態度で言われても、説得力はなかった。

でも、さすがに体力の限界なのか、ハティはもとより、ルピナスでさえ何かを言い返す余裕はない。
それどころか、一緒に一息つこうと、そろって用意されていたカップにお茶を注ぎ始めた。


「で、何か見つかったの?」


二人がホッと一息ついた頃を見計らって、アンジェは口をはさむ。


「誰かさんが、モノの見事に散らかして下さっていたので、作業が予想以上に難航しましてね。」

「………へぇ。それは、大変だったわね〜。」

「あとでご自宅にお届けしますから、ご自分で管理なさってください。」


そんなっ!?と、アンジェはすがるようにルピナスの笑顔につめよった。書物庫はすでに服やらバッグやらで溢れかえっており、あれだけの本を置ける部屋がないのだとルピナスに懇願する。

しかし、ルピナスは笑顔でそれを拒否した。


「いい花嫁修業になりますよ?ついでに屋敷中の大掃除も出来て、一石二鳥ではありませんか。」


クスクスとどす黒いオーラが見える以上、アンジェに回避できる術は無い。


「そんなだから、ルピィには彼女が出来ないのよ。」

「男を渡り歩いているあなたには、言われたくありませんね。」


ああ言えば、こういう。
けれど、やはりルピナスの方が1枚上手だったことにアンジェは折れるほかなかった。
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