生命師-The Hearter-

□第2章 即位15周年祭
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《第2話 各国の王たち》


白い花火が打ち上げられ、盛大な式典の幕が上がる。
見事に晴れ渡った空の下でファンファーレが鳴り響き、世界中から集まった人々が大歓声をあげた。


「……あっ……」


ナタリーは視線の先に、あの時に見た青い鳥が飛んでいるのを見つける。この王都ラティスに来るまでの馬車の中で見た、ガラスのような綺麗な身体を持った青い鳥が、優雅にその羽を広げて高い空を舞っていた。


「ナタリー。」


リナルドに小声で注意されて、ナタリーは慌てて視線を前にもどす。
埋め尽くさんばかりに集まった民衆の前で、招待を受けた出席者たちが挨拶の言葉を述べているところだった。

デイルやテトラの住む国、メルカトル王国からは若い国王と王妃。
ライト帝国の地図の左隣にあるプロメリア王国からは、車椅子がなければ動けない病弱な国王様。

孫娘の王女は、欠席らしい。

その次に紹介されたのは、"円"もしくは"丸"と表現できる人物たち。


「バビロイ公国より、パードゥン・バビロイ公。そして、パーティ王妃とハウ王子…──」


声高らかに名前を呼ばれて、3人は見事なまでにそっくりに鼻を鳴らす。
最近、ライト帝国との関係が悪化しているせいか知らないが、その態度は不愉快極まりなかった。集まった民衆の関心も高いだけに、また近々ひと悶着(モンチャク)ありそうだ。


「──…クレア・バーディ司教。」


前言撤回。バビロイ公国との関係は、この人物がいる限り大丈夫そうだと思える。
しかし、名前を呼ばれた人物は、お世辞にも愛想がいいとは言えない。

薄紫の長い髪、たぶんハティとイイ勝負だ。

背筋をのばして、凛(リン)と前を見据えており、すっとした高い鼻筋が見事に美しかった。


「……綺麗な人…」

「女どもが浮かれてんな。アズール皇帝じゃなくて、歴代最年少司教をみにきたんじゃね?」


隣に立っているハティが、そっと耳打ちしてくれる。


「それより見てみろよ。ハウ王子。同じ王子でもオルフェ様とは天地の差だよな。名前、ハムに変えた方がいいと思わねぇ?」


思わず噴き出しそうになったナタリーは、ハウ王子がジッと見つめてきたことに驚いて視線を泳がせた。悪口を言っているのが聞こえたのかと委縮したが、大分離れた先にいるハウ王子に、その心配はない。
むしろ心配なのは、式典が終わってからリナルドに小言を言われるんじゃないかということの方が大きかった。


「おっ、レーヴェ大陸の主(ヌシ)の登場だぜ?」


ハティの耳打ちに再び視線を前に戻したナタリーは、その人物をみて固まる。

圧倒的な存在感。

濃紺の髪と瞳。深い海の底のように、引き込まれそうな魅力を持った人だった。


「ナタリー? どうした?」


一瞬ギュッと身体を硬直させたナタリーに、ハティが変な視線を向けてくる。


「なんでもないです。」


悪寒が走ったなんて言えない。
会ったことがないはずなのに、いや、こうしてお眼にかかるのも初めてなはずなのに、ひどく怖かった。


「ヴェナハイム王国より、グスター・ドン・ヴェナハイム国王。」


その名前は、きっと忘れないだろうと思う。


「超軍事国家の絶対君主、ヴェナハイム王国のグスター王か……」


ハティの言葉は、それ以上耳に入ってこなかった。身体が震えださないようにするのが精いっぱいで、その姿を極力見ないように目を閉じる。


「ナタリー、大丈夫じゃ。」


リナルドの言葉に驚いて、ナタリーは目をあけた。どうしてわかったのだろうと不思議に思うほど、リナルドの声が優しい。

ホッと息を吐く。

それからは、グスター王を見ても何も感じることなく、式典に集中することが出来るようになった。


「ありがとう、リナルドじいさん。」


囁くようにお礼を述べたナタリーに、リナルドは何も答えない。
その代わりに、遠くの空で青い鳥がキラリと光った。
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