操花の花嫁
□三巻 影武者
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<其ノ二 忍を操る者>
「華様、大丈夫ですか?」
翔が振り返ってたずねれば、その額に汗を浮かべながらも華は大丈夫だと頷いた。
結局、安全性を考えて森の中を一日中歩き歩き通すことにした華たちは、途中、運良く迷い馬に出会ったため、日が完全に落ちきる前に深緑の大樹を間近に望める距離までたどり着いた。
馬に乗ったままでは、目立ちすぎると考えて、歩きながら燕がいると思われる御影の屋敷へとむかう。
どれほど歩いただろうか、太陽が黄色から赤へと変わる頃、華は目当ての人物をその目にとらえた。
「──…ッ…つばめッ!?」
大きく目を見開いて叫んだ華が、足を滑らしそうになり、慌てて翔がそれを支えた。
「翔……あそこに燕がいるわっ!!」
翔の差し出された腕に支えられながら華が指差す先には、罪人のように木で縛り上げられた燕の姿がそこにあった。
「急いで助けなきゃ。」
もがく華を翔が制止しようした時、
「誰か来る!」
と、華が小さく声をあげた。
翔は、誰かに見つかってしまったかと辺りを警戒したが、華がいぜん、燕に視線を向けたままだったので、つられて眼下に視線をおろす。
「ここからでは、よく見えませんね。」
「うん。もう少し近付いて───」
そう言いながら一歩踏み出すと同時に、
「やめておけ。」
と、静かな声に動きを止めた。
振り返った華の目に飛び込んできたのは、白い髪をもつ眼帯の男───
「雷門光輝!?」
ギリッと翔が奥歯を噛みしめると、
「やめておけ。」
と、再び光輝は静かな声で制し、ゆっくりと歩み寄って華の隣に立つと、赤く染まる眼下を見おろした。
「御影忠康だ。」
「えっ?」
光輝の言葉に、華は驚いた声を出した。
「あれが…御影忠康……」
ここからでは、どんな顔の男なのかはわからないが、あの男が風見一族を束ねる"人間"なのだと華は知った。
「……?
燕をたすけてくれるのかしら?」