操花の花嫁
□三巻 影武者
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三巻 影武者
<其ノ一 信じたくない行方>
───大好きよ、華。
そう言った燕の声が聞こえたような気がして、華は目を覚ます。
そして、ここが暗い洞窟の中だと気付いた。
「燕?」
キョロキョロと辺りをうかがっていると、隣に珍しく横たわっている翔が目に入って、華は一瞬ピタリと動きを止める。
しかし、寝ているだけだとわかって、すぐにホッと胸を撫で下ろした。
「翔の寝顔なんて、久しぶりに見た気がする。」
思わずこぼれた笑顔のまま、
「ねぇ、燕もそう思わない?」
と、口にしたことで改めて燕の姿が見えないことに気付く。
いくら暗いといっても、もう太陽が昇っている。
その証拠に、燕のほどこしたと思える術でおおわれた、広い洞窟の入口にあるツタから太陽の光が差し込んでいた。
影の長さからして、まだ昼にはなっていないようだが、妙な胸騒ぎが華を不安に駆り立てていく。
昨日の夜、あきらかに燕の様子はいつもと違った。
昔の話をしたり、月を見上げたり、抱きしめたり。
どこか寂しそうで悲しくて、どうして謝るのか聞こうと思った時にはもう、意識はなくなっていた。
「……燕?」
もう一度、小さく呼んではみるも、やはりその姿はない。
外で見張り役でもしているのだろうかと起き上がってはじめて華は、本当に燕がいなくなっているのだと知った。
「私の着物じゃ…ない…。」
ほんの少し感じていた違和感。
それが、視覚により一層ハッキリとすることで、華は慌てて翔を揺り動かす。
「翔ッ! 起きて!!」
眉をしかめるだけで、目を覚ます気配のない翔の体をさらに強く揺さぶりながら華は、耳元で、
「おきてよ! ねぇってば!」
と、叫んだ。
「──…ッ!? は…華?」
「寝惚けてる場合じゃないわ。燕がいないのよ!」
一瞬、ここはどこかと辺りをうかがった翔も昨夜の出来事を思い出してか、
「燕は?」
と声をあげて立ち上がる。
「だから、いないのよ!!」