操花の花嫁
□二巻 忍び寄る魔の手
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<其ノ三 都>
『以下の者を連れてきた者に、金十両を褒美とす。』
外見の特徴と共に、立札に書かれた大まかな内容を口にした燕が、ギリッと奥歯をかんだ。
「風見のやつ。許さないわ。」
「燕っ、少し落ち着いて。」
当の本人であるはずの華に、やんわりとなだめられて燕もなんとか、その怒りをおさめる。
「人間に華を売るなんて。」
考えるだけでも、はらわたが煮えくり返りそうだと、燕はブツブツ言ったが、いつのまにか翔が横に並んでいたことに気付くと、
「あんたも今は、押さえなさいよ。」
と、横目で注意した。
翔に至っては、怒りのあまり、言葉が口から出ないようで、代わりにその口は、きつく閉じられている。
二人が目に見えるほど怒っているせいか、華は、それほど怒りを覚えなかった。
「着物のこともかかれているから、着替えれば大丈夫だよ。」
何とか二人の怒りを和らげようと提案してみるが、
「無駄ね。」
と、燕にバッサリと切られる。
「立て札が出てるってことは、呉服屋も目の色かえているだろうし……大体、風見と手を組んでるやつなのよ!?
忍のものか、どうかなんてすぐにバレるわ。」
いつもなら口をはさむはずの翔は、黙ったままだ。
「とにかく!夜の都をなにもなしに歩いていられたのは、奇跡に近いわね……気を張っていて、正解だったわ。
これが、いつたてられたものか、わからないけど。
いつまでも、ここにいるわけには、いかないわね。」
燕のいう言葉に、最もだと思ったのだろう。
翔も無言で頷いて、同意を示す。
再び、森に姿を隠すはめになってしまった。
「幾姫の情報を集めるどころじゃないわね。」
先頭を歩く燕の言葉に、華も翔もなにも答えない。
情報を集めたくても、草薙の者には出会わないし、御影という男が立て札を出したということは、少なくとも風見の支配下にある西一帯では、気が抜けないことになる。
「ほんっとうに、ムカつくわ!」
怒りをぶつける先を探して、燕は、暗い森の中をガムシャラに進む。
「ちっちょっと、燕!?
どこにいくのよっ。」
慌てて後を追う華に、翔も続く。
そうして夜の森のなか、ひとりごちる燕の後ろ姿を追いかけているうちに、華たちは、大きな洞穴の前にやってきた。