操花の花嫁
□二巻 忍び寄る魔の手
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二巻 忍び寄る魔の手
<其ノ一 水辺からの刺客>
─────ここは、どこ?
知らない場所、聞きなれない声が聞こえる。
──────「来い。」
ふいに耳元で声が聞こえた気がして、華はハッと目を覚ました。
月が姿を消し、朝の光に木漏れ日がこぼれ落ちている。
鳥の鳴く声と、
「おはよう、華。」
「おはようございます、華様。」
聞き慣れた声がふたつ。
ホッと息を吐く華に、
「嫌な夢でも見た?」
と、燕が優しい笑みをむけた。
それに小さく首をふった華に、
「今日も良いお天気ですよ。」
と、翔も微笑みかける。
いつも通りの朝。
木々の間でヒッソリと暮らしてきた華にとって、昨夜の出来事があったと言えど、特に変化のない朝に思えた。
そう、夢と現実の狭間で聞こえた、あの声以外は……。
息がかかるほど近くに感じられた低い声と迫る手。
あのまま夢から覚めなければどうなっていたのだろう?
小さく体を震わせた華に、
「風邪でも召されましたか?」
と、翔が聞く。
額が触れあえば、その心配そうな瞳が間近に見える。
「どうやら大丈夫そうですね。」
ふわりと微笑む翔は、いつも通りだった。
「そうそう、華。
いい知らせがあるわよ。」
体を起こした華の隣に腰掛けながら燕は、
「雲雀(ヒバリ)さん、無事だって。」
と、笑う。
「えっ? ほんと?」
「多少傷は負ったらしいんだけど、隙をみて逃げ出せたって。」
「よかったぁ。」
昨夜、一ヶ所だけ不自然に燃え上がっている先を見ながら、誰も何も言わずにいた。
翔と燕にうながされるようにして、しぶしぶ華が眠りについたあとでさえ、まるで見せつけるかのようにジリジリと消えもしなければ、広がりもしない赤い炎は、朝になってようやく消えた。
灰が残るのみとなった建物の様子を見に行った彰永丸(ショウエイマル)という名のワシがもたらした情報は、
雲雀の生存ともうひとつ。
「火野一族、頭領。
火野悠が来てたらしいわ。」
「火野…悠。」
「やっぱり勘は当たってたわね。」
何気ないようすで燕は呟いたようだが、その声には少し焦りが見えた。
「でも、まさか頭領直々になんて……。」
「いずれ、こうなることはわかっていたはずだ。」
きっぱりといった翔の声にそうねと燕は笑う。
そんな二人の姿を華は、複雑な思いで見つめていた。