操花の花嫁
□一巻 預言の姫
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<其ノ三 襲撃>
翔と燕を安心させるために寝たフリをしていた華が、ようやくまどろみ始めた頃。
バンッと勢いよく開けられる襖の音と共に、
「華様。お逃げください。」
と、雲雀(ヒバリ)が血相をかえて飛び込んできた。
「何事ですか?」
翔(カケル)がそう尋ねている間に、燕(ツバメ)が華の身支度を整える。
「風見のもんに見つかったんどす。今ならまだ、裏口から逃げられます。
すぐそばに森があるさかい。はよぉ、お逃げ下さい。」
翔と燕が、雲雀の言葉に顔を見合わせて頷くと、そろって華の手をひいた。
「雲雀さんは!?」
立ち止まって振り返った華の目に、三つの影が窓から覗き込んでいるのが目に入る。
「危ないッ!?」
華が叫ぶと同時に、窓は土の壁におおわれた。
「何してんの!?
うちのことはええから。
はよ、行きッ!!」
その声に押されるようにして華は駆け出す。
華の長い黒髪が部屋の廊下に消えると同時に、パラパラと土の壁が崩れ始めた。
「久しぶりに血が騒ぐわね。」
ニヤリと笑った雲雀が拳を握りしめると、豪快な音をたてて土壁が砕け散る。
「ほら、やっぱり僕の言うた通りやんかぁ。」
その声に雲雀が、
「風見の三つ子か。」
と、声をもらす。
ヒュンと音をたてて、雲雀のホホを何かがかすめた。
それは、床に突き刺さる前に、彼女のホホに一筋の血のあとを残す。
「玄(ゲン)、アカンやん。
おばはんかて一応、女なんやから顔に傷つけたったら。」
「そういうな、善(ゼン)。
今頃シワのひとつやふたつ増えたかて、気にせえへんのちゃう?」
「うっわ〜、周(シュウ)。
遥さまみたいやな。」
「……。」
「玄も黙ってんと、はよオバはんに謝り。」
外見は三面鏡をあてたように髪型も服装も全て同じにも関わらず、中身は差が激しいようだった。
まだ、あどけなさが残る三つの顔は、ピクピクと口元をひくつかせる雲雀に気づいているのだろうか。
「オバハン、オバハンてなぁ……。」
低くなる声が聞こえても三人のペースは乱れない。
「ガキがイキガってんとちゃうで!?その口、二度ときけへんようにしたる!!」
どこからともなく現れる土の壁。
「影分身みたいに、ちょこまかとっ。」
声をあげて笑うもの、口元に笑みを浮かべただけのもの、無表情のもの、裏社会では名の知れた風見の三つ子こと"向井三兄弟"は、バラバラと雲雀の繰り出す攻撃を避けていく。
「周。どないすんの!?
このオバハンめっちゃ強いでっ!?」
「遥さまに怒られるんだけは、避けたいからなぁ。」
周とよばれた少年の言葉に、雲雀はピクリと眉を動かした。
「遥さまって、風見遥やないの?」
「……。」
先ほど雲雀の顔に傷をつけた玄という少年が無言で頷く。
「意外にせっかちな男やな……ただの"草薙狩り"か、思たのに……風見が一番に動くなんて予想外やったわ。」
「わしもそう思う。」
「「「「ッ!?」」」」