操花の花嫁

□一巻 預言の姫
1ページ/5ページ


<其ノ二 旅での再会>



黄昏も間近にせまりかけた頃、今日の宿を求めて都を歩いていた華は、走り寄ってきた町娘を見て、ホッと胸をなでおろした。


「やっぱり、この辺り一帯は風見一族の領地らしいわね。」


声を潜めて紡がれた言葉を

「そう。ご苦労様、燕(ツバメ)。」

と、華はお礼を言って受け止めた。


「で?宿を探しているはずの翔(カケル)は?」

「あっ。まだだけど?」

「まだだけど?…じゃないわよ。
華一人残して何やってんのよ。」


華の言葉尻りを真似ながら燕が腰に手を当てた時だった。


「華様から目は離していない。」


当然だといった様子で翔が現れる。


「で、宿は?」

「見つかっていない。」

「はぁ?
あんた何やってんのよ。」


燕が呆れたように額に手をあてれば、

「燕は、見つけたのか?」

と、翔は探るような目を燕へとむけた。


「はぁい。そこまで。」


風見一族の支配する土地で騒ぎを起こしてしまう訳には、いかない。
これでは、何のために町人の格好をしているのかわからなくなってしまう。


「とにかく。野宿は出来ないし、宿も見つからないんじゃどうしようもないんだから。
ひと休みしましょう。」


華は、無言で睨み合う二人をつれて、すぐそこの団子屋へと足を運んだ。


「いらっしゃいま……。」


客人を出迎えようと店先に出てきた主人が、華の姿を見て言葉を切った。
そして、すぐさま店の奥へと引っ込むと、主人が一人の女性を連れてくる。


「何すんの?うちまだ…って!?
華様やないの!!」


その女性は、慌てて口を押さえると何度も頭を下げた。

新たな客を対応するために、店へと戻った主人の代わりに、その場に残った女性に三つの視線が突き刺さる。


「あなた、何者?」


警戒心を隠そうともせず、燕が前へ出ると、翔が華を守るように一歩下がる。


「ここではなんやから。
……こっち来てください。」


あたりを伺うようにしていた女性は、少し先に華たちをうながした。

真意がわからないながらも、このまま放っておくことも出来ずに、華たちはあとをついて行く。


「いつか、この日が訪れると思ってました。」


人影が薄れる路地裏に入ると、その女性は、どこか懐かしそうに華を見つめた。


「あの、あなたは?」


華がそう尋ねると、女性は今気づいたと言わんばかりに目を見開いてから、フワリと微笑み、うやうやしくひざまついた。


「申し遅れました。
私の名は、原田伊織(ハラダ イオリ)と申します。
草薙一族が頭領、華様。」


伊織によれば、華が生きていることは草薙一族でさえわからずにいたと言う。

しかし、つい三日ほど前、全ての草薙一族の生き残りに保(タモツ)から伝令が届いたらしい。


「華様は、生きておられると。
もう一度力を貸してほしい。
そう鷲尾さまは、おっしゃられました。」

「でも…どうして私の姿が?」


いきなり一族の者だと言われてもわからない。

華は、生まれてから今日まで家の敷地内から出たことはなかったのだから。

その不安を打ち払うかのように、伊織は、

「わかる人には、わかるものです。
"この実"様によく似てらっしゃる。
もちろん要(カナメ)様にも。」

と、言った。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ