薄桜鬼
□秘めたる思い
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side 山南 敬助
一体いつからなんでしょうね。
こうしてあなたを追っている自分に気付いたのは…。
「山南さん。」
わたしを呼ぶ彼女の声は、変わらない。
変わってしまったのは、わたしの方なのに、彼女が変わってしまったように見えるのが不思議でしょうがない。
これを愛しいというのでしょうが、今のわたしにはもう、そのような言葉をつぐ資格は、ありません。
異質であって固執しているのは、わたし。
──弱かった。
強くなりたくて、もう一度あの頃のように傍にいたくて───
「けれど、それはもう叶わないのですね。」
「山南さん?」
「ああ、すみません。
なんでしょうか?」
ついつい考え込んでしまったようですね。
雪村く…いえ、心の中では、せめて千鶴さんと呼ばせてください。
羅刹になったわたしのもとに、こうして笑顔で走りよってくるのは、もう彼女だけになってしまった。
嫌味を言うつもりはないのですが、どうしても押さえきれない苛立ちが、言葉の刺となって発してしまっているうちに、かつての同士すらもわたしを遠巻きに見るようになってしまった。
千鶴さん。
あなたがこうしてわたしのもとに来てくださるのが嬉しいと、そう思ってしまうのはやはりいけないことでしょうか?
「……んですけど。
って、山南さん?」
「…ああ、すみません。」
最近、どうもおかしい。
首をかしげる千鶴さんの瞳にうつるわたしの姿は、以前と変わらないのに中身が徐々に他人に支配されていくように感じる。
「体調が悪いようでしたら、横になられた方が……。」
遠慮気味な声がすぐ傍で聞こえる。
「いえ、ご心配には及びません。
申し訳ありませんが、もう一度おっしゃっていただけませんか?」
「あっはい。えっと……。
今夜のお豆腐なんですけど、湯豆腐か揚げ出しかどちらがよろしいか聞きにきたんです。
山南さんは、どちらがよろしいですか?」
「わざわざ、そんなことをわたしに?」
驚いた表情のわたしに千鶴さんは、笑顔で頷く。
「どちらでも構いませんよ。」
苦笑混じりに答えれば、彼女はウーンとそれこそ真剣に頭を悩ませる。
「みなさんと同じでかまいませんよ。」
助け船を出すつもりで、そう口にしたのに、
「いえ、山南さんに最初に聞きにきましたから…。」
と、千鶴さんまでも苦笑した。
「わたしに?」
「はい。」
「なぜですか?」
「なぜって…」
怪訝そうなわたしに気付いたのかは、わかりませんが、千鶴さんは言いにくそうに言葉をつまらせた。