薄桜鬼
□風間さまの日常
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side 風間 千景
一体、こんなやつらのどこが良いと言うのだ。
西の鬼を率いる俺の誘いを断ってまで、傍にいたいと思わせる新選組とやらを数日間、監察してはおるが、
「やはり、所詮人間ではないか。」
儚くて、もろく、浅はかで卑しい生き物。
幾度となく、あいまみえてみたが、たいした腕はもっていない。
「いずれ、この俺のものになるのだ。」
焦る必要は、ない。
だが、そろそろ身を固めねば周りがうるさい。
それをかわすのにも疲れた。
適当な女に、興味はない。
かつて、東の国を治めた雪村の娘がどんなものか。
純血の女鬼。
俺の子を産ませるには、ちょうどいい女。
申し分は、ない。
もちろん、あの雪村千鶴とやらも、そう思っていると、思っていた。
俺の子供を産みたいと望んでいる
──はずだったのだ。
「あやつらさえ、いなければ。」
千鶴は、新選組どもに押し付けられたと見受ける雑用を淡々とこなしている。
「鬼ともあろうものが、呆れてものも言えんな。」
そんなに楽しいとも思えんが、鼻唄を歌っているあたり、苦ではないのだろう。
「中庭で一人とは……。」
仮にも、この俺が幾度となく足を運んでやっているというのに、警戒心の欠片もないのか?
いや、鬼ともあろうものが易々とやられるほどではないが……。
「いささか、無防備に見える。」
パシャパシャと水を跳ねさせながら、新選組の汚れた服を洗う。
ときどき、桶からそれをあげれば、一人満足そうに笑う千鶴がそこにいた。
「守ると言いながら、全然守ってないではないか。」
守るとは、傍にいること。
常に危険を回避してやるということでは、ないのか?
「だから、やつらには
まかせておけんのだ。」
奥歯が噛み締められる。
口だけ偉そうなことを言えば、
この有り様。
いまここで、この俺が襲撃しようものなら、誰にも気付かれることなく連れ去れるというものだ。
「はぁ。」
とりあえず、あの洗い物とやらを終えるまでは、待ってやろうか。
そう思い、少し体勢を整えた時だった。
「ちっずる〜。」
あれは、たしか。
「あれ?平助くん。
どうかしたの?」
そうだ、"平助くん"だ。
名前は、たしか……
藤堂平助といったか?
「いや、左之さんたち見なかった?」
「ううん、見てないけど。」