薄桜鬼
□眠り姫へ
1ページ/3ページ
side 原田 左之助
目が覚めて驚いた。
「なんで千鶴が隣で寝てるんだ?」
もしかして、無意識に手を出したとか!?
いや、まて、俺。
いくら酒に飲まれようと、それは絶対にありえねぇ。
「っていうか、酒飲んでねぇし。」
最近は、気が抜けない毎日のせいで昔みたいに飲みつぶれるまでどころか、たしなむことすらしてねぇのに。
じゃあ一体なんで、こんなことに…
「ぐぉぉぉ。新八っつぁん、それは俺のおかずぅ〜」
……そうか。
平助の寝言で思い出した。
新八のやろうが羅刹になったばかりの平助を無理矢理連れてきて、千鶴がそれを聞いて覗きにきたんだ。
そう。
俺の部屋に。
「無防備すぎだろ。」
スヤスヤと寝息をたてる千鶴を見れば、思わず苦笑するしかなく、それと同時に男として見られていないのかと軽くへこんだ。
年が離れているせいか、千鶴にとって俺は"兄"という位置でしかないんだろうな。
そう思うと、平助が羨ましい。
ゲシっと眠る平助を足でつつけば、
「千鶴、好きだぁ。」
と、俺の足に抱きつく。
「おい、こら。」
てめぇは、どんな夢みてんだよ。
幸せなやつだな。
いや、そうでもねぇか。
平助は、羅刹になっちまった。
千鶴は、自分に責任を感じてるみたいだが、薬に手を伸ばしたのは平助自身だ。
新八は、羅刹がどうこうと不満を抱いているが、こうして変わらない平助を見ると昔みたいにつるむ姿は変わらない。
「どこで、変わっちまったんだろうな。」
おもわずこぼれた言葉に答えるものはいない。
「いつまで俺の足に抱きついてやがる。」
と、平助を振り払ってみてもゴロンと寝返りを打っただけだった。
羅刹になると昼間は起きてるのが辛いらしいからな。
「仕方ねぇなぁ。」
千鶴のために平助が無理して起きてるのには気付いてた。
うつらうつらし始めた平助をクスクスと笑っていた千鶴もいつの間にか寝息をたてていた時は、思わず笑った。
巡察に行ってくるわと新八が俺の部屋を出て、話し相手もいなくなった俺は、千鶴の寝顔を眺めながら寝ちまったらしい。
「まぁ、そんなに時間もたってねぇだろ。」
そういって、身体を起こそうとした時だった。
「ごめんなさい。」
……。
「お前にそんな風に言われても平助は喜ばねぇよ。」
──俺だってそうだ。
もし、どうしても薬に手を伸ばさなけりゃならねぇ場面がきても。
それは、俺の意思だ。
千鶴が気負うことじゃねぇ。
「泣かしたくねぇのに、泣かしちまうってのが男ってやつなのかもな。」