薄桜鬼
□不思議な屯所
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side 斎藤 一
──転ぶ。
「きゃっ。」
わかっていたから咄嗟に支えたが…
「あっ、斎藤さん。ありがとうございます。」
──何故、転ぶ?
雪村千鶴。
確かに彼女、いや、その存在を隠しているために彼というべきだろうか…
とにかく、雪村がきて一週間が立つのだが、どういうわけか雪村は、必ずこの場所で転ぶ。
毎日決められた時間のみ自室から出れる。
監視役は、俺だ。
たしか、屯所に連れてきたあの夜から雪村は、この場所で足をとられていた。
「あの…斎藤さん?」
どうやら考えこんでいたらしい俺は、慌てて雪村を解放した。
「気を付けろといつも言っているはずだが?」
「すみません。」
本当にすまなさそうに謝る雪村にこれ以上、何も言う気になれずに、ただ息がこぼれた。
一週間続けて同じ場所、同じ間隔でつまずくものなのか?
それとも、俺が気付いていないだけで、この板がせりあがっているのか?
「どうもありがとうございます。」
自室まで送り届けた雪村になんとか返事をするが、俺の意識は依然、あの廊下にむいていた。
──わからん。
他の隊士の反応を観察してみたが、これといって変化はない。
では、あいつがただ鈍臭いだけなのか?
しかし、七日続けて自然に転ぶとは考えにくい。
ましてや毎日のように注意してやっていると言うのに…
「わからん。」
「一くん?どうしたの?
難しい顔しちゃって。」
「…平助か。」
声から平助とわかるが、ただ通りがかっただけであろう。
振り向く必要は、ない。
それよりも先に、こちらの問題を片付けなければ。
「一くん?」
「平助、そこを歩いてみろ。」
「ん?」
首をかしげながらも平助は、俺の指定した箇所に向かっていく。
「これで、いいのか?」
「違う。逆だ。」
「??」
──やはり何も問題がないように見受けるが。
「おっ。平助!なにやってんだよ?」
「斎藤もいるじゃねぇか。」
「新八っつぁんに、左之さん。…どっか行くのか?」
「おう。」
「平助も誘ってやろうと思ってよ。」
「まぁじで。行く行く。
一くんは?」
三人の視線が向けられるが、おおかた島原にでも行くのだろう。
興味がない上に、今は問題を片付ける方が先だ。
「俺は、いい。」
「そうか?」
「んじゃ、まったなぁ。」
結局、平助に手伝いをさせたものの答えは得られなかった。