薄桜鬼
□屯所預りの少女
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side 土方 歳三
あいつが新撰組の屯所預かりになってから早半年。
少し賑やかになった気がする。──いや、騒がしくなった。
血生臭い毎日を送っているせいか、いつもどこか殺伐としていた屯所内がたった一人の小娘が来ただけでこうも変わるものなのか?
そう思いながらも、目の前に山積みにされた文に目を通す。
俺は、近藤さんを。
この新撰組をもっと高みに連れていく目標がある。
鬼の副長と呼ばれる俺までが振り回されるわけにはいかない。
邪念を振り払うかのように小さく首を振れば、ひとりでに息がもれた。
「おい!てめぇら。
ちったぁ静かにできねぇのか!!?」
もう我慢ならねぇと襖をあけて声を張り上げる。
「す…すみませんっっ。」
大きく肩を震わせて、体を縮ませながら謝るこいつは、雪村 千鶴。
「勝手に部屋から出るなといったはずだが?」
騒ぎの原因は、やはりこいつか。
背の高さが違うから自然に見下ろす形になるのだが、何故か涙目になりながら千鶴は、大きく目を見開いた。
「あ〜。土方さん、いけませんよ。女の子を泣かせちゃ。」
「…総司。」
いつから居たのか、笑顔のまま総司が近づいてくる。総司のことだ。
最初から見てやがったに違いない。
「ちっ。」
俺の舌打ちが聞こえたのだろうか、千鶴が大げさに肩を震わせるのがわかる。
が、
「総司。てめぇは、何してやがる。」
頭を撫でやりながら、鬼副長がどうこうなどと千鶴に吹き込む総司の腕は、しっかりとその体に巻き付いている。
そのことを問いただしただけなのに、
「え〜。何いってるんですかぁ。鬼副長が泣かせるから慰めてあげてるんですよ。」
と、きた。
…ほぉ。大した度胸じゃねぇか。
「偉く気に入ってるじゃねぇか。」
皮肉をなげかけてやる。
総司が千鶴をただ"大人しく見張る"とは、初めから思っていなかった。
からかうというよりか、こいつの場合、ただの暇潰しなんだろうが。
「誰かさんの小姓になってれば、わざわざ僕が慰める必要はないんですけどねぇ。」
俺に押し付ける気か?
そう思っている所に
「副長。雪村が部屋におりません。」
「斎藤か。」
いいところに来た。
総司相手じゃ話しにならねぇ。
「こいつを部屋に返してやれ。」
俺がそう言えば、斎藤は総司の腕の中に千鶴の姿を確認して小さく頭を下げた。
「行くぞ。」
「えっ?あっ…はぃ。
失礼します。」
斎藤が総司の腕の中にいた千鶴を引っ張って連れていく。
「え〜。もうちょっと千鶴ちゃんと遊びたかったのにぃ。」
にこやかに手をふっていた総司が、二人の姿が消えると同時に、
「で、どうするんですか?あのこ。」
と、訪ねてくる。
「まだ、外に出してやるわけにはいかねぇ。」
ため息混じりに答えてやれば、総司は意外だという顔をむけてくる。
「何だ。
言いてぇことがあるんなら口に出せ。」
「殺さなくていいんですか?」
…こいつは。
まったくもって、手におえねぇ。
「殺さねぇよ。」
冗談なんだか本気なんだか。笑いながら残念だと背を向ける総司を見送った。