生命師-The Hearter-
□第6章 命の聖地エルトナ
2ページ/8ページ
ジュアンの孫息子であるロキが、ウィザードの一員となり、アラサイト家の生命師パスを持ち出したということ。その2日後……正確には、丸1日があけた翌早朝に、アズール皇帝が殺害された。ロキがウィザードに生命師パスを渡しているかもしれないという事態の深刻さを皇帝に伝えるために、城に向かったアンジェたちは、たぶん運悪く現場に居合わせた所を見つかったのだろう……と、最後にラブが声を落とす。
直前までリリスと一緒にいたことは、新しく顔合わせとなる人形のピットで証明できるのだが、それはごく限られた人たちへの証明にしかならないと、マジョリアも顔をくもらせた。
「ジュアン様は心労が激しく、薬を服用されて眠っています。リリス様も容態が悪化され、昨夜やっと落ち着いたばかり……いま、兵にこられては、わたくし…ッ…耐えられませんわ。」
「リナルド様…とらえられているハティ様たちのためにも、どうか知恵をお貸しください。」
4体のハーティエストから、すがるようなまなざしをむけられては、リナルドも断るわけにはいかない。
しかし、当然否定の言葉が紡がれるはずもない。
そもそも、助けるつもりで来たのだから心配はいらないと、リナルドは優しくほほ笑んだ。
「長生きはするもんじゃよ。」
何か現状を打開する案があるのか、リナルドがうなだれるキーツの肩をポンっとたたく。
「あの子らがおる限り、希望は消えておらん。そうじゃろ?キーツ。そなたの心は、皇帝と共に生き続けねばならん。」
「……リナルド様…。」
「その心を願ったアズールは、すでに時代をオルフェにたくしておるのじゃ。あの子らの帰ってくる場所を守ってやらねば、わしらがここに残っている意味はないのではないか?」
悲しみにひたっている暇はないと、厳しいリナルドの言葉が、キーツを暴徒に変わることから救った。
"……はい、アズール様。この命ある限り、わたしはライト帝国と共にあり続けます。"
あの夜に、キーツがアズールに直接誓った言葉は、嘘でも、その場限りの言葉でもない。
"この国の未来のために"
そう言ったアズールは、もういないのかもしれない。
それでも、その願いに対する誓いはしっかりと受け取っていた。
「アズール様は、こうなることを予期しておられたのでしょうか?」
"わたしがこの先どうなろうとも……"
「そうじゃな…あやつもカーラーと同じで、グスターを好いておったからの。」
国と、友と、未来を信じて、アズールがその先にある自分の命の短さを何に預けたのかはキーツ自身が知っている。
"……この国とオルフェのことをしっかりと頼んだぞ。"
「……オルフェ様…」
永遠の命を持つ限り、乗り越えなければならない絶対の試練に、キーツは耐えた。
それを他人事とは思えないマジョリア達も、そろって心痛な面持ちをしている。
「……ハティ様…」
「…アンジェ様…」
「アラカイト家の由緒あるハーティエストとして、ジュアン様にかわり、このわたくしがロキ様を連れ帰ります。」
「よかろう。」
それぞれの思いを受け取ったリナルドは、長いひげを撫でつけながら、強くうなずいた。
そして問いかける。
「15年前、マリオット戦争時に地下牢に閉じ込められた生命師の集団脱走事件を知っておるか?」
生命師狩りの犠牲となった生命師たちが、無条件に幽閉されたうえに虐殺がおこなわれていたという歴史上最悪の帝国政府事業に歯止めがかかったのは、たった一晩で、牢がもぬけのカラになってしまったと言う有名な事件。
それ以降、帝国制のあり方が問われ、亡きオーガ皇帝に変わって政権を握っていたアメリア皇后は、実質帝国を追い出される形となり、アズールが新たな皇帝につくことで落ち着いた。
ライト帝国の人間ならば、一度は耳にしたことのある話しだと、その場の空気はリナルドに肯定する。
「その脱走路が、ここから東にある墓地のひとつに繋がっておるのじゃよ。」
「「「「ッ!?」」」」
「あのアズールが率先しておこした裏事業じゃから……まだ、存在しておるはずじゃ。問題は……どうやってそこまで行くかじゃな。」
ハーティエスト強制回収のために、予想以上の数の兵が、ライト帝国全土に放たれるだろう。
王都は、もはやハーティエストにとって一番の危険区域。近距離でさえ何事もなく無事にたどり着けるかどうかが疑わしいと、リナルドは困ったように眉をよせる。