ソレが無いのは致命的!

□続・ソレが無いのは致命的!:01
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 あの日から数日が過ぎて、なかなか仕事の忙しい御剣とは時間が合わないし。
 僕は比較的平穏な日々ってやつを、送っていた。

 とはいっても、メールには時々、とんでもない内容の文面が送られてくるようになったんだけど。

『仕事が忙しくてかなわん。君の顔を少しでも見ることができれば、それだけで元気になるのだが』

 とかさ……。
 全身が痒くなるような言葉を、シレッと送ってくるもんだから、超絶こっ恥ずかしくて思わず携帯を投げそうになった。
 こんなメールに対してどう返信しろってんだ、と大いに困惑しつつも。

『……うん、まぁ、頑張れ。またお前の時間が空いたら飲みに行こうよ』

 とか返す僕は、やっぱりどうにも甘いんだろうなぁ。
 しばらくして、『楽しみにしている』とか返ってくれば、こっちこそが嬉しくなってしまうんだから。
 思わず唇が笑みの形を作っていたらしく、真宵ちゃんから大いに不審がられてしまった。


 こほんと咳払いをしてから、真面目な顔をして中断していた仕事を再開する。
 しばらく書類整理をしていたら、以前の仕事で御剣から借りていた、参考資料を発見した。
 彼からは特に重要書類というわけでもないので、僕の都合でずっと借りっぱなしになっていても、問題は無いと言われていたものだ。

 そういえばこれ、そのうち返そうと思っていたんだよな……。
 今日は特に来客の予定もないし、外出の用事はあるけど書類仕事に追われているわけでもない。

 忙しいあいつにしたって、資料を手渡す少しの時間くらいは、作ってくれるだろう。
 むしろ喜ぶんじゃないか、さっきのメールの内容からすると。


 ……て、いやいやいや、待て待て僕。

 何をそんな、浮かれたこと考えてるんだよ、違うだろ。
 忙しいってはっきりメールに書いてきてるのに、そんな時にわざわざ渡しに行く必要なんてないよ、邪魔してどうするんだ。

 ……いや、でも、これから行こうと思ってた調査の現場、検事局からも近いからついでに寄ってみてもいい、かな?
 僕に会えれば元気出るって書いてあったし。
 僕だって、何日も会えてないからそろそろ話したい……て、違う違う!

 こうやって絆されるから、変なことになるんだよ。
 ノコノコ会いに行ってどうすんだ。
 またチューされちゃうかもしれないんだぞ。

 うう、なんで親友に会いに行くのに、「キスされるかも」なんてリスクを考えなくちゃならないんだよ。
 なんだこの泣けそうな現実。

 僕はただ、親友と気ままに会いたいだけなのに。
 しばらく資料を前にして、散々迷って悩んで考えたんだけど。
 ここで怖気づくのもなんか違う気がして、むしろちゃんと関係性を正すためにも、きちんと会って話したいっていう思いもあるし。


 結果的に僕は、御剣に会いに行くっていう選択肢を、選んでしまった。





 忙しいって言ってたし、検事局に居ない可能性もあったんだけど。
 アポを取ってまで会わなくちゃいけない用事ってわけでもないし、そこは行き当たりばったりに任せた。

 たまたま、通りかかったから寄ってみただけだよ、とか。
 そんな言い訳を脳内でしながら、会えないならそれはそれでいいや、ぐらいの気持ちで。


 果たして御剣はそこに居た。

 軽く扉をノックすれば、硬い声が入室を促す。
 僕がひょこりと顔を覗かせれば、相変わらず眉間にヒビを走らせて、手元の書類に何やらペンを走らせる男が見えた。
 やっぱりメールにあったとおり、忙しいみたいだ。

 途端に邪魔してしまうことになったかと、申し訳なさが頭を擡げる。
 さっさと渡すものだけ渡して、退室しようと扉のすぐ傍から動かずに声をかけた。

「お疲れ、御剣。邪魔してごめん」

 言えば、紙の上を走っていたペンを握る手が止まって、かと思えばものすごい勢いでその顔が僕に向けられたから、少し笑えた。

 別に意図して驚かせたかったわけじゃないんだけど、不意打ちっぽくなってしまったようだ。
 瞬く御剣の瞳は、驚きを隠せないまま僕を見る。


「……幻覚、か?」
「なんでだよ」
「いかん、幻聴まで」
「いやいやいや、ちゃんとここに居るから!」

 フルフルと頭を振ってこっちの存在を認めようとしない男に、僕はすっかり遠慮を忘れて近づいた。
 ていうか、人のことバッチリ目にしておいて幻覚だの幻聴だの、失礼じゃないか?
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