とある検事の愛の日記
□12月07日、晴れのち曇り。
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「いや、だからよぉ、俺は恋に堕ちたわけよ! そりゃもう可愛くっていじらしくってハンパねぇのよっ……スミマセンきちんと説明しますはいッ。だ、だから、つまり…」
つまり。
合コンの女王と呼ばれる女性(なんだソレは、とツッコミたくなったが今はとにかく捨て置く)に何度目になるかもわからん『運命の恋』に堕ちた矢張。
女性になんとか近づくため、またしても見栄を張ったのだろう。
「こー見えて法曹界に友人いっぱいなのよ、俺ってば。そいつらちゃんと連れてくっから、合コンしようぜ? クリスマスに素敵な出会いを提供! やっさしーなぁ俺ッ」
得意気に言う矢張の顔が、目に浮かぶようだ。
なんという忌々しさか。
「ほぉ……それで、成歩堂をムリヤリにでも参加者に加えたというわけか」
「いや別にムリヤリってわけでもねぇぜ? まぁ、泣きついたことは事実だけどよぉ……でもあいつ、本当に嫌なら絶対に参加なんかしねぇし」
それは確かに一理あるが……いやしかし!
私というれっきとした想い人がいながら、寄りにもよってクリスマスという恋人たち最大のイベントに、私と過ごさず合コンに参加などッ。
どう考えても不自然だ、解せぬ!!
と、どうやらまたもこの唇から思考が漏れていたらしい。
矢張が盛大に笑い出した。
「お、おまっ、まーだそんなこと言ってんのかよ! ぶっはははははは、そりゃ成歩堂も合コン参加するわけだ…!!」
「な、なんだと? 貴様ッ、何故そのようなことを断言できるのだ! 私の言葉のどこに、成歩堂が忌まわしき飲み会に参加せねばならぬ条件があったと?!」
わかってねーし!
無自覚かよぶははははは!!
と、またも大爆笑である。
耐えかねた私は、再度その胸ぐらを掴み上げ、鬼も逃げると言わしめた眼差しを向けた。
途端にヒィッと息を呑み、目の前の男は冷や汗をダラダラと流し始めるが、それで許せるはずもない。
「きちんと、説明しろ」
「ははははハイぃい言うッ、言います、言わせて頂きます…!!」
コクコクと壊れた人形のように、何度も頷く矢張。
手を離せばその場に崩れるように手をつき、ゲホゲホと咽るが自業自得だ。
同情の余地はない。
「はぁあ、とんだ休日だなぁちくしょう……いや、ナンでもアリマセン!」
「とっとと話せ」
腕を組んで見下ろし、促せばうーんと少し考えた素振りを見せ。
ぴっと人差し指を立てて、聞いてきた。
「お前さ、まず第一に。成歩堂が自分のこと恋愛対象として見てて、すげー好きだって、思い込んでるだろ」
「思い込みなどではない、事実だ」
すぐさま反論すれば、何故だろうか。
その顔が、この上もなく酸っぱいものでも口にしたような表情になった。
「えーと……その、アレだ。そう、その根拠は?」
「考えるまでもないだろう。彼は私に会いたいというただその一心で、弁護士になったのだぞ? しかも、そのような彼に対して、私は散々な態度を取ってきた、その自負はあるのだ。だというのに、彼は私を諦めず信じ抜き、更には私の無実をも証明してみせたのだ」
そう、この事実こそが、考えれば考えるほど「成歩堂は私が好きなのだ」という結論しか生み出さない。
聞けば、彼は学生時代に役者を目指していたのだとか。
そのような希望溢れる確固たる夢がありながら、その道を諦めて弁護士になった……ただ、私に会うためだけに、だ。
そこに愛がなければ、何だというのだ。